兵庫県でハボタンやパンジー、ビオラ、カーネーションなど鉢物の花や、花壇苗を栽培する農家の2代目です。
息子が2人います。
長男は転勤の多い教育関係の企業に勤務しており家からは独立、次男は大学生3年生で、就職活動を始めたところです。
次男はいずれ家業を継ぐと言ってくれていますが「就農までに半年か1年間、海外農業研修に参加したい」と希望しています。
そのための資金も、本人が一度就職して貯めると言っています。
国内の別の産地で経験を積むのであれば理解できますが、海外で農業の何を学ぶのかイメージできず……。
いま次男が通っているのも、農業と関係ない政策系の学部で、現在の就職希望先はIT業界とのこと。
全部自分で調べて、申し込みをするつもりのようですが、英語が流暢に話せるわけでもなく、正直、親としては不安しかありません。
数年先の話で、正式に行き先を決めたら詳しい資料を見せて説明するということなのですが、実際に海外での農業研修では、どういうことを学んでいるのでしょうか。
そして、海外で学んだことが、環境が違う日本の現場で本当に生かせるのでしょうか?
(兵庫県・片山譲治さん/仮名・50代)
曽根孝祐
曽根バラ園
仕事はもちろん、人生に対するモチベーションを得ることができます
私は、平成26年の3月から翌3月まで1年間、アグトレを利用してオランダに海外農業研修に行きました。
家がバラ農家で、いずれは継ぎたいと思っていました。海外研修に興味を持ったきっかけは、就職活動で出会った東京の市場の常務にすすめられたことです。
偶然周囲にオランダに行った人がいた縁もあり、そこから英語を猛勉強し、オランダに飛びました。
バラの企業と菊の企業に半年ずつ派遣されました。研修生だからといって何か特別なことをするのではなく、収穫・選別・パッキング…と現地の労働者と働く内容は変わりませんでした。
ただ、現地でほかの農場を紹介してもらって見学に行くなどの交流は頻繁にありました。
現地では、教えてもらうことよりも主体的に動くことが求められました。受け身だと何も得られません。
実際、ボスには「質問しない奴は愚か者だ」とまで言われ、私も分からないことは何でも聞いてひとつずつ体で覚えて解決していきました。
コミュニケ―ションは当然英語です。日常会話くらいは理解できるくらい英語を勉強してから研修に挑みましたが、はじめは意思疎通がうまくいかないこともあって戸惑いました。
オランダのバラ栽培は収量や規模が日本と全く違い、技術も発展しています。最先端の環境で研修した経験を活かして、日本でもバラに適した環境づくりを目指し、「環境制御」に取り組みたいと考えています。
海外研修で得られたものは、仕事はもちろん、人生に対するモチベーションだと思います。
オランダでボスに言われた言葉で印象に残っている言葉が「世界を広く見ろ」でした。
視野を広く持ち、大きな目標を見つけて自力で解決していく、一生ものの力を身に付けられたと思います。
皆戸顕彦
公益社団法人国際農業者交流協会(JAEC)業務部 派遣業務課兼活動支援課長
海外の農家で農業技術や知識を学ぶとともに、知見を広げることも可能です
私たち「国際農業者交流協会」が主催する海外農業研修(アグトレ)は、農場での長期滞在型実務研修(OJT)をベースとしたプログラムです。
参加者は、現地の農家で農作業を通じて農業技術や知識を学ぶとともに、農場で働く人々はもちろん、さまざまな人たちとの交流を通じて、知見を広げることができます。
農業のほぼすべての分野について、海外で学べるチャンスがありますが、国によって受け入れ農家がない場合もあります。
例えば花卉の分野であれば、オランダに、主に切花や鉢物栽培の研修受入農家があります。
研修生は現地のワーカーたちに混じって、植え付けや収穫作業などに携わります。
花卉研修の実績としてはアメリカの農家もありますが、近年ではビジネス傾向の変化により、切花農家の受け入れがありません。花壇苗であれば、若干の受け入れ農家があります。
以下は補足情報なので、参考にしてみていただければと思います。
1、何ヵ国に何名程度の研修実績があるのか?
→海外農業研修事業は1952年から続いており、これまでにおよそ15,000人の方が参加しました。主に、アメリカ、オーストラリア、欧州でのプログラムを実施中です。
2、どのくらい滞在が必要で、どれくらいの期間実習を受けられるのか?
→農業実習の期間は、アメリカの場合、全プログラム18ヵ月のうち約13ヵ月、それ以外の国でも、12ヵ月の滞在のうち約11ヵ月です。それ以外の期間は、語学の学習や現地農業を学ぶ座学、そして研修旅行等に充てています。
3、研修の参加費用、現地での生活費などはどうしているのか?
→研修経費は国や期間により異なりますが、おおむね100万円~170万円程度です。農家からは研修手当が出ますので、それを現地で生活や活動のために充てることもできます。