漁業の人手不足をどうにか解消できないかと、日頃から取り組んでいます。
同じ東北地方の青森県の漁村で「漁師縁組」という取り組みをしているとニュースで見ました。
他県から若者を受け入れて、着実に成果を上げているようです。でも、私のところもそうですが、東北の漁村は閉鎖的なところが多いのに、よく地域外からの志望者を受け入れているなと感心します。
漁師の中には縄張り意識があり、新しく入ってきた漁師に厳しい態度を取る人もいます。
青森県では役場の主導で取り組んでいるとのことですが、地元の説得には苦労したのではないでしょうか。
成功例として興味があります。この取り組みに至った経緯や説得するのに工夫したことなどをお聞きしたいです。
(秋田県・後藤信夫さん/仮名・40歳)
馬場 治
東京海洋大学名誉教授
外から受け入れている地域はたくさんあります。受け入れる漁業者の立場に立った対応を考えてみては
まず、漁村が単純に閉鎖的と思うことから見直す必要があるかと思います。閉鎖的と思うから、漁村の対応がそのように見えるのではないでしょうか。外からの漁業者を受け入れているところは全国にたくさんあります。
それぞれにいろいろな事情があって受け入れているのですが、いずれも受け入れに難色を示しているような状況ではないというのが実情です。
もちろん、受入のためには漁業者の意識が変わることも必要ですが、それを後ろから支援する自治体の取組も重要です。
自治体としての取組にはいろいろあると思いますが、例えば新規に漁業をやりたいという方に対して、受け入れ漁業者と一緒に面接する、また住居の確保を行うなど、受け入れる漁業者側がしてほしいと思うことを自治体側から提案していき、漁業者の立場に立った対応を行えば、漁村の対応も変わってくるのではないでしょうか。
東出隆広
青森県 佐井村 総合戦略課 課長
粘り強く地元漁業者や漁協を説得。成功例が増え、地元からの担い手誕生にも期待
漁業や農業などの産業で後継者不足が問題となっていますが、後継者とは地元の人を想定したものでした。
特に漁業は閉鎖的で、漁師になるには漁協の組合員資格を得る必要があり、いわゆるよそ者への強い拒絶がありました。自分たちの水揚げ、所得が減るのではないかという潜在的な恐れからでしょう。
そこで、地元の後継者のいない漁業者の下に「養子縁組」のような形で従事者として就労させ、やがて後継者として跡を継がせるイメージで事業を設計しました。「漁師縁組」というネーミングは、「養子縁組」からのダジャレです。
事業の構想・計画がまとまったのが2012年で、募集に至ったのは2016年です。この約4年は、地元の漁業者や漁協との協議のための期間でした。
「今の漁業者の所得を脅かすものではない」「従事者が減っても、1人あたりの水揚げ額は増えず、漁協全体の水揚げ額が減り組合員の負担が増える」「漁業を続けるためには担い手を外部に求めるのも選択の一つ」といったことをデータを交えて説明し、了承されました。
「漁師縁組」事業に採用された新規就業者は「漁業支援員」と位置付けられ、村が最長5年間生活費の支援を行います。漁業技術指導者として登録された村内の漁業法人や団体に預けられ、指導を受け独立を目指します。
支援終了後も漁業で生計が立てられることを示せたら、地元からも新たな担い手が生まれるのではと期待しています。まだ課題はありますが、さまざまな施策を考えていきます。