現在、さくらんぼなどの果樹栽培を中心に行っています。
作る作物は時代とともに変化していますが、先祖代々、ずっと家族だけで経営してきました。
しかし、近所の若い農家たちは人を雇い、会社にして、農地を拡大させているという噂を聞きました。
家族経営でやっていくべきなのか、従業員を雇い会社として運営するか、どちらにメリットがあるのでしょうか?
また、家族だからといって無給で仕事をさせるのも、おかしいなと思っています。
家族を従業員として雇い入れ、給与を支払う方法はあるのでしょうか?
世間では、働き方改革でプライベートな時間を楽しむ人も増えていますよね。
自分だけ農業に従事し、ほかの家族は別の仕事を持つといったこともありなんじゃないかと感じています。
メリットやデメリットを踏まえ、無理のない働き方と家族の人生を模索したいと思います。
(山形県・花田さん/仮名・50代)
鈴木厚志
京丸園株式会社 代表取締役
私の場合は、農地と技術を引き継ぐために法人化しました
私は静岡県浜松市で、13代続く農園「京丸園」を経営しています。ずっと家族経営でしたが、15年前に法人化し、現在は100名ほどの従業員が働いています。
私が継いだ頃は、祖父母、父母、私たちと3世代、総勢6人で切り盛りしていました。農業と家族経営は相性が良いのですが、現在は働き方も多様化し、3世代全員が農業に携わることは困難です。
そうなると、他人の手が必要になります。そういう意味で、法人化は私にとって必然でした。法人化する前に「家族経営協定」を実施し、家族の役割分担、休日や給料等を明確にしたことで経営体として考えられるようになりました。
4代前までは小作農家で、先祖が土地を広げ今の私たちがあることから「新規就農から今の位置に至るまで100年必要」というのが実感です。
農業の使命の一つは「農地」と「技術」を次世代に引き渡すことです。そのためには、ワークライフバランスを考え、持続可能な「人」の循環も必要。私たちは、障がい者や高齢者、女性、若者などあらゆる人が働きやすい環境を作り、その仕組みを次代に引き継ぎたいと考えています。
大事なことは自分がどんな農園を作りたいのかを明確にすることです。目的地が決まるとそこに道が開けます。
田中寛子
税理士・永光パートナーズ
メリット、デメリットはさまざま。農業経営相談所に相談してみてはいかがですか?
日本の農業のほとんどは、家族経営によって担われてきました。そのため、経営と家計がはっきりと区分されにくく、労働力や資金繰りの考え方もあいまいで、経営状態を把握することが難しかったのが現状です。
しかし、今では個人や集落での農業が困難になり、それぞれの状況によりメリットを見出して農業法人化を選択するケースが増えています。農業法人とは、農業を営む法人の総称で、「会社法人」と「農事組合法人」に分けられます。この農業法人のうち、農業経営を行うために農地を取得できる法人のことを「農地所有適格法人」といいます。
農地所有適格法人の必要な条件は、
1、株式会社(公開会社でない)、農事組合法人、持分会社
2、主たる事業が農業(自ら生産した農産物の加工・販売等の関連事業含む)
3、農業関係者が総議決権の過半を占めること
4、役員の過半が農業に常時従事する構成員であること、役員又は重要な使用人が1人以上農作業に従事すること
です。
法人化することの主なメリットは、人材確保や事業継承がスムーズになること、税制や融資面での優遇、信用力向上などがあります。一方で、設立に際して手続きや費用が発生し、社会保険への加入義務や、保険料の負担、法人所得が赤字でも法人住民税(均等割)の負担があります。さらに、複式簿記による記帳や法人税申告等の税務、会計面の知識が必要など、気をつけていただきたいことも多いです。
農家さんごとに事情や状況が違うため、メリット、デメリットはさまざま。生産規模や売上金額によっても、法人化以外の方法を模索できる場合もあります。各都道府県の農業経営相談所などでは相談会も行っているので、参加されてみてはいかがでしょうか。