広島県で農業法人をしています。
最近、ドーム型のハウス内でリーフレタスなどを水耕栽培する「ドーム型植物工場」を紹介するテレビ番組を見て興味を持ち、導入を検討したいと思っています。
ハイテク設備ですから導入コストがかかることは承知しているのですが、その番組では通常のハウスと比較して収量が上がるとか、オートメーション(自動)化することで人件費が削減できるとかいった、良い面が強調されて報道されていた気がします。
それが本当であれば設備投資をしても回収することができそうですし、近い将来の食糧不足が懸念されている今、こうした設備を導入する価値はあるのではと感じています。
そこで、検討材料にするべく、実際に「ドーム型植物工場」を導入した現場の人にメリットやデメリットを聞くことはできますか?
(広島県・内田さん/仮名・50代)
阿部圭助
グランパシステムエンジニアリング株式会社
リーフレタスなら通常のハウスの2倍程度の収量も可能。初期投資と販路の確保が課題です
弊社が開発したドーム型農場は世界初のシステムであり、すでに東日本大震災の被災地である岩手県の陸前高田市や神奈川県秦野市、群馬県草津市などの農園でリーフレタスの生産に使われています。
このドーム型農場は、空気圧で膨らました直径27メートルのドーム内に、直径20メートルの栽培水槽を設置した栽培施設で、野菜を効率的に生産することができます。
ドーム内にある円形水槽の中心で定植した野菜は、生長に応じて渦を巻くように円の外周に送り出されます。
縦長のハウスのように作業者が行ったり来たりする必要がないため、定植や収穫の作業を省力化することが可能です。
ドームの面積は1棟573㎡で、従来の縦長のビニールハウスと比較して無駄なスペースがないため、面積あたりの生産効率が高いのが特徴です。
またドームにはビニールハウスのような柱がなく、全体がフッ素樹脂製のフィルム(AGC社製の「エフクリーン®︎」)で覆われています。
このフィルムは紫外線による劣化に強いため、通常のビニールハウスで使われる農PO(ポリオレフィン)に比べて耐用年数が10年以上と長く、太陽光を均等に散乱させることで、植物の光合成に必要な光をハウス内全体にムラなく行き渡らせることができます。
さらに、ドームは強い内圧で膨らませているので、外部から侵入しようとする細菌やウイルス、病害虫の被害を軽減する効果が期待されています。
近年、異常気象により農業環境は決して恵まれていませんが、ドーム内部に内圧を調整する8台の送風機が備わっているので、台風や水害、熱波、干ばつなどで外部から急激な圧力がかかった場合も圧力センサーが働いて、通常の台風程度なら問題ありません。
まだ北海道や北陸のような雪深い場所での導入実績はありませんが、アラブ首長国連邦のような高温の砂漠地帯ではすでにリーフレタスの生産に使われています。
生産量は夏冬で1日500株と、同面積の水耕栽培ハウスの2倍近い収量が得られます。
気になるコスト面については、ドームと円形水槽の設備で3,500万円程度かかります。消費電力は気象条件や栽培条件によっても変わりますが、平均すると年間100万円くらい、水道代は月数万円程度です。
また人件費は、ドーム内の作業にパートさんを雇ったとして1棟あたり1日1人でまかなえます。
現在、さまざまな企業が植物工場の市場に参入していますが、一部では撤退するところも見られます。
これは販路や売り方に問題があることがほとんどで、設備投資をして大量のレタスを安定生産できるようになっても、販路を開拓できず撤退していく企業が少なくないのです。
ここがデメリットと言えるかもしれません。しかし相談者さんは農業法人としてすでに販路を確保していらっしゃるので、周年栽培が可能なドーム型植物工場の導入であれば7年から10年程度で減価償却できると想定されます。