ハウスで30種類ほどの野菜を育てていて、2年前からはリーフレタスの水耕栽培もはじめました。
水耕栽培は年間を通してやっていますが、最近ようやく安定して黒字化するようになったところです。
水耕栽培はデータの分析が重要だと思いますが、記録をつけてみると、失敗の中でもチップバーン(カルシウム欠乏症による葉先枯れ)がとても多いことがわかりました。
最近では、真冬に成長を促成しようとハウス内の温度を高めたところ、新葉にチップバーンが多発してしまったことも。なかなか一筋縄ではいかず、四苦八苦しています。
そこで、チップバーンを回避するための注意点を聞きたいです。
(埼玉県・河内さん/仮名・40代)
北田 悠
悠々ファーム 代表
まずは養液濃度を下げてみて。ただし急激な温度変化には気を付けましょう
チップバーンは、おっしゃる通り、カルシウム不足が原因で起こると言われています。
そして葉物水耕栽培におけるチップバーンの発生は、培養液中にカルシウムは存在するものの、根から吸収しても葉先に届かないことがあるため、どうしても起こりやすくなってしまいます。
そこで今回は、「葉先にカルシウムを届けるためにはどうしたら良いか」という観点から回答したいと思います。
まずは応急処置として、カルシウムを葉面に散布して直接届けることが有効です。
ただしこれは対症療法的な解決であり、手間がかかります。
ですので、あくまでも応急処置として行い、合わせて根本的な原因の解消を目指しましょう。
根本的な解決策として、肥料濃度が高いとチップバーンが起こりやすいと言われていますので、「肥料濃度を下げる」ことをおすすめします。
実際に、薄い肥料濃度で育てるとチップバーンは起こりにくくなります。
具体的には、栽培養液濃度ECを、夏場は1.0dS/m、冬場は1.5dS/m以下で管理します。
ただし、肥料濃度を下げると、高い肥料濃度と比べて成長スピードが落ちたりするデメリットもあります。
また養液濃度を下げる場合、微量元素の肥料濃度は下げない方が良いでしょう。
いきなり微量元素まで下げてしまうと、微量元素の欠乏症状が起こりやすいためです(例:OATアグリオの場合、1、2号は下げるが、5号は下げない)。
また、環境面の注意点として、いきなり気温を高くしたりしていませんか?
日の出以降に気温を急上昇させてしまうと、気孔が閉じてしまうことで光合成効率が落ち、その後のカルシウム吸収も落ちてしまいます。
気孔を閉じさせない管理としては、気温よりも飽差に注目すると良いでしょう。
飽差とは、気温・湿度のバランスです。
光合成効率を高めるに当たって、飽差を参考にすることで、管理が容易になります。
圃場の気温を上げるとどうしても飽差も上がってしまうことが多いのですが、急上昇させないように管理すると良い結果が出やすくなります。
気孔を閉じさせないことでどうしてチップバーンを解消できるのかというと、カルシウムは「転流」して葉先へ移動することが多いためです。
「転流」とは、植物が体内の浸透圧を一定にしようとする際に起こる現象です。
日中、気孔がしっかりと開いて光合成が行われると、光合成産物である糖が生産されます。
その糖が植物の体内に不均一に存在すると、浸透圧によって水が吸収され、濃度を均一にしようとします。
その浸透圧による吸収のことを「転流」と呼びます。「転流」が起こる際にカルシウムが吸収され、葉先へ移動しやすくなることで、チップバーンが起こりにくくなるのです。
このように、飽差管理を行うと成長スピードが上がり、チップバーンも起こりにくくなりますので、とても効果が高いと思います。
飽差管理というと、高圧ミスト等の設備を想定してしまうかもしれませんが、作業を工夫するだけでも可能です。
例えば、日の出とともに側窓や天窓を段階的に開閉することで、温度が上がるスピードが遅くなり、飽差変動がゆるやかになります。
質問者はデータ分析をされているとのことなので、これだけでも効果が目に見える形で確認できるかもしれません。ご検討ください。