農家に嫁いで30年が過ぎました。
義父が非常に口うるさく、主人も言いなりになるだけでした。
昨年、私の唯一の味方だった義母が亡くなりました。
死に際に「もう別れた方がいい」と言われ、離婚を決心しました。
夫にその話をしたところ、離婚を了承してくれる流れとなりました。
そこまでは良かったのですが、成人している子供が私と一緒に農業をやっていきたいと言い出しました。
そこで財産分与で農地をもらおうと考えています。
しかし、その話をすると、それまで何も言わなかった義父が「農地法があるから農地は簡単に財産分与できないんだ!」「そもそも農業を続けられる能力がないクセに!」「誰がお前なんかに先祖から受け継いできた土地をやるものか!」と言い出しました。
どうやら円満に解決できそうもありませんが、どうしたらいいのでしょうか?
ちなみに農地の所有者は夫で、広さは1ha程度です。
私は離婚後に息子と農業を続けていく気持ちは変わりません。
財産分与に関して正当に権利を主張するための具体的な方法などを教えてください。
(群馬県・青木まなみさん/仮名・50代)
岩崎紗矢佳
弁護士
まずは、該当する農地が財産分与の対象となる財産なのか確認が必要です
財産分与とは、離婚した夫婦の一方が他方に対して、財産を分け与えることを請求する権利をいいます。これによって、離婚後の夫婦間の経済格差を調整する役割があります。
財産分与の対象となるのは、結婚期間中に夫婦が協力して築いたと考えられる財産です(共有財産)。
協力して築いたものであれば、その財産の名義が夫婦のどちらであるかは関係ありません。
他方で、協力して築いたと考えられない財産(特有財産)は、財産分与の対象にはなりません。典型例は、夫婦の一方が実親などの相続により取得した財産です。
また、結婚前に夫婦の一方が取得していた財産も原則として協力して築いたとは考えられません。
今回のご相談で注意が必要なのは、相談者が取得を希望する農地は、そもそも財産分与の対象となるか(その農地が「共有財産」か「特有財産」か)です。
夫は、どのような経緯でその農地を取得したのでしょうか。相続財産の前渡しの趣旨で義父から夫に生前贈与されたのであれば、特有財産となる(財産分与の対象とならない)可能性が高いでしょう。
反対に、夫婦で稼いだお金で義父から購入したのであれば共有財産となる(財産分与の対象となる)可能性も考えられます。
財産分与の対象財産の場合、仮に、その農地が財産分与の対象と認められた場合について考えます。
離婚自体が協議離婚(調停離婚や裁判離婚でなく、二人が離婚届に署名押印して役所に提出して離婚する)の場合に、財産分与も協議によって行う場合には、農地の取得には農地法3条の許可が必要となります。
離婚自体は協議離婚であるものの財産分与は裁判所の調停または審判によって行う場合には、農地法3条の許可は要りません。
もっとも、相談者は、農家に嫁いで30年の間、農業に従事してきたとのことですし、息子も成人して農業に従事することができるようです。
そうであれば、協議によって財産分与がなされ、農地法3条の許可が必要だとしても、下限面積など他の基準を満たせば、その許可を得られる可能性が無いとまではいえません。
農地が財産分与の対象と認められなかった場合、この場合には、財産分与として取得することはできません。
しかし、結婚期間中の夫の言動の程度によっては、精神的苦痛等を負ったとして離婚時に慰謝料請求をし、その慰謝料の代わりに農地の取得を請求することも考えられないわけではありません。
また、農地の価格が高くない地方であれば、財産分与の対象となる他の財産(預貯金など)を財産分与で受け取り、それをもとに、他の農地を購入することも考えられます。
これらの場合には、農地法3条の許可が必要となりますが、上記のとおり、相談者に30年の農業経験があり、息子と一緒に農業をやり、人手も確保できることなどからすれば、許可を得られる可能性が無いわけではありません。