農家に嫁いで1年目。
もともと北海道で生まれ育った私ですが、現在暮らす地域は北海道のなかでもかなりの田舎で農業が盛んな地域です。
同じ北海道でもこんなに文化が違うのかと毎日が驚きの連続ですが、特にびっくりしたのは「農家の妻の会」という農家に嫁いだ奥様たちが月に1度集まる会合があることです。
始めは「知り合いや友達ができるかも」とワクワクして参加したのですが…。
正直、いまはその会合が憂うつでたまりません。
年齢が近い人がもっといればいいのでしょうが、会合に参加する人は40~50歳以上のベテランの方が多く、集まるたびに「農家なんだからそんなに化粧ばっかりして」とか「そんな爪で農作業なんかできないでしょ」など、自分の見た目や服装を否定されます。
それだけならまだしも、まだ結婚して1年も経たないのに、跡継ぎはまだかと赤の他人にしつこく聞かれることにもううんざりです。
参加したくないと夫にも義母にも相談しましたが「よけいに陰で言われるだけだ」「参加するのが嫁の務めだ」とまったく取り合ってくれません。
このままずっと参加し続けるしかないのでしょうか。
(北海道・加藤明美さん/仮名・20代)
鈴木朝子
エム・フォーヌ
「農家の妻の会」は地域によってさまざま。新しい世代でこれからの会を作ってみては?
私も農業が町の経済の大きなシェアを占めている北海道のオホーツク地域に住んでいるので、相談者さまの状況がよくわかります。
私の地域には、婦人会とは別に40代くらいまでの農家のお嫁さんを対象としたフレッシュミズの会という集まりがあります。
これはただのお茶会やママ友の会ではなく、農業者という意識を持って皆さん集まっています。
会のテーマはさまざまで、お料理教室や手芸教室、飲み会なども行います。シーズンオフには研修会と称した旅行もあり、ここで新しい仲間ができて農家に嫁いでとても良かったとおっしゃる方もいます。
しかし、なかには相談者さまと同様になかなかなじめず、まったく参加していない方もいます。
行きたくない方は行かなくてもいい、というスタンスですので、その会ではとくだん問題にもなっていませんが、地域や集まりによっては長年脈々と続いてきた雰囲気や温度差がありますよね。
会合の頻度も違えば、世代も違います。参加自由といっても、暗黙の了解で強制参加を強いられる地域もあれば、参加しなくても何も支障がない地域もあるでしょう。
同じ北海道内であっても、隣町とでさえ全く違うこともあるのですから、育った町とのギャップに最初は驚くことも多いかと思います。
相談者さまは農家に嫁いで1年目とのこと。どこの地域であっても、新しく来た方には壁のように感じるものです。特に若く新参者の相談者さまは注目の的でしょう。
あなただから言われるということではなく、誰であっても新入りに対しては言いたくなるのが世の常だと思います。
何かと言われるのは大変ですが、ニコニコ笑って聞き流しているとそのうちに慣れて何も言わなくなると思いますよ!
ただ、多様化が尊重されている昨今です。昔の農家の奥さんのイメージそのままの方もいれば、相談者さまのようにいつもきれいにしている奥さんもたくさんいます。
現に私の地域の農家の奥さんのなかには、農業をしながらネイルサロンの開業をしたり、ミセスコンテストに参加している女性などさまざまです。
恐らくあなたの地域の同世代の奥さんたちのなかにも、同じようにおしゃれな方がいらっしゃるのではないでしょうか。そして、あなたと同じような理由で参加しなくなっているのかもしれません。
先ずは夫を通じて同年代の農家の奥さん方とお友達になるといいと思います。そして一緒に参加し、会を少しずつ変化させていくのもひとつの手かもしれません。
今は昭和ではなく令和なのですから、いろいろな方がいらっしゃってもいいと思いますよ。でも、それほどのエネルギーは……とおっしゃるならば、お義母さんにも一緒に参加してもらいましょう。
今のお気持ちを正直に伝えて、助けてもらうのです。お義母さんもあなたのような素敵なお嫁さんは自慢だと思いますよ。
1年たっても2年たっても状況が変わらないようでしたら、お休みするのもいいでしょう。時間を置くと状況が変化するかもしれません。
あまり深刻に考えず、焦らず、自然に囲まれた土地で楽しく充実した人生をお過ごしください。その会があなたにとって楽しいものになることを願っています。
小川繁幸
東京農業大学 准教授
農家がオシャレでいたっていい。同世代の仲間と共に農家の妻の会にも新たな風を
まずは年上のベテラン農家さんの会合に飛び込まれた勇気に敬意を表します。
私も普段は北海道におり、女性農家の集まりに参加する機会が多いのですが、婦人会の高齢化を実感しております。
そのような中で「農家の妻の会」はまだ40代の方が参加されているという点では、フレッシュな方もいらっしゃるなという印象です。
それでも20代と40代以上では価値観が全く違いますから、なかなか世間話といっても話題に入りづらいこともあるでしょう。
田舎はどうしてもコミュニケーションが重要視されますから、年上の方は「年下の面倒を見なくては」「何か話題をふって話に入れるようにしてあげなきゃ」という気遣いで話題を探しているのではないかなと思います。
ただ、先輩農家の価値観や視点はやはり古いなというのが私の感想です。
昨今は、空いている土地を使って直売所やカフェを併設している農家も増えています。お客さんも気軽にドライブがてら牧場や農家へ行く機会も多くなっており、農業者と消費者の接点や交流は昔よりはるかに増えているでしょう。
スーパーや百貨店の生鮮コーナーでは生産者の写真が添えられることもあり、女性農業者がメイクをすることは今や当たり前です。
また、SNSで即座にアップ出来てしまう時代ですので、いつでも写真に撮られて良いようにオシャレしておくことも今の農業者には必要なことです。
最後に、今の状況を打破するための方法を2点アドバイスさせていただきます。
ひとつ目は、「農家の妻の会」以外の会合に参加することで、自分と同じような価値観を持った方を見つけることです。
農村は閉鎖的な空間なので、あらゆる業界の会合が高齢化しています。農家の会以外の集まりでも、相談者と同じようにベテランの先輩と価値観が合わずに悩まれている方がいるかもしれません。
農業を展開していく上でも異業種交流はとても重要ですので(6次産業化など)おすすめですよ。
2つ目は、先輩農家にTPOに合わせたファッションやメイクの仕方を一緒に考えないかと、あえて提案し相談することです。
農家がなぜオシャレしないといけないかという理由を説明して、農家らしいオシャレのあり方を考えるきっかけがあれば、きっと「農家の妻の会」にも価値観を変えてくれる方が現れるかもしれません。