定置網を主体とした漁船の労務員として働いています。船に乗り始めて3年目です。
10人ほどの小さな会社ですが、昔気質の社長で、先輩方も皆さん面倒見は良いのですが、なかなか仕事のことで意見を上げたりできる雰囲気がなく「黙って俺たちについて来い!」「一人前に仕事ができてから意見を言え!」といった感じです。
働き方改革が世間で騒がれているのに、いったん沖に出ると長時間労働が普通で、休憩時間も思いついたようにしかとってもらえません。
このような労働環境をこのまま続けていたら、今後ベテランの船員たちが引退する時に、若い人たちが入ってきてくれないのではないかと真剣に考えています。
同年代の若手がいないため、こうした労働環境について気軽に相談できる相手がいません。
どうしたら良いでしょうか。
(長崎県・中村一也さん/仮名・20代)
林 晋也
網代漁業株式会社 取締役・流通販売部長
漁業労働の特徴を理解し、自らの就業環境を把握した上で、外部の専門機関に相談を
漁業は、さまざまな天候条件の中で漁船上での作業や岸壁での水揚げ作業などを行う、労働環境の厳しい産業です。また、とりわけ盛漁期などは操業時間が長くなって、深夜にわたるような場合もあり、休日も定期的に取得することが難しいといった面もみられます。
漁業とひと口に言っても、魚を捕獲する遠洋・沖合・沿岸漁業から、魚を栽培する養殖漁業まで多様な種類があり、それぞれの漁業の形態に適した就業時間帯があります。一般的にいうような「定時」の概念があてはまらない場合も多くあります。
とはいえ、船員であっても事務員であっても、生産性を上げるために「働き方改革」が必要であることは確かです。しかしながら、取り組むにあたってはそれぞれの働く環境を踏まえていかなければ本末転倒になってしまいます。
もし漁船の乗組員であれば、就業に関しては「船員法」という法律が適用されます(ただし、政令の定める総トン数30トン未満の漁船は適用外)。
この法律は船員に対する労働保護と公法的取締りのふたつの側面をもっています。労働保護については、船員の労働条件について規定する、いわば「海上労働基準」といえるものであり、内容としては雇入れ契約(労働契約)、給料その他の報酬、労働時間、休日、有給休暇、定員、食料の支給、衛生(医師、衛生管理者の配乗)、災害補償、就業規則などを規定しています。
質問文には「労務員」と書かれていますが、もし陸上で事務員として働いている場合には船員とはみなされないため、「船員法」は適応外となります。
自然を相手にする農業・水産業は,天候などの自然条件によって労働時間等が大きく左右され、人間の力ではコントロールできない要素が多くあり、労働時間規制や週休制になじまない性質の事業です。
したがって、労働基準法に定める「法定労働時間」「法定休日」「割増賃金(※深夜割増賃金を除く)」「休憩時間」「年少者の深夜労働規制」といった規定の適用外とされています。
ただし、6次産業化(生産した農水産物を加工して販売すること)に取り組む農業者・漁業者が運営する事業所で、主たる事業の内容が「加工(製造業)」「販売(小売業)」と判断される場合には、農業・水産業で一部適用除外とされた上記の規定に関して、すべてが適用となるため注意が必要です。
また、農業・水産業であっても、労働者を常時10人以上雇用する事業場においては、必ず就業規則を定める必要があり、そのなかには始業・終業の時刻、休憩時間についても業態に応じて規定しなければなりません。
もし、長時間労働を強いられていたり、休憩時間が取れないといったことが状態化していたりする場合は違法になります。
質問者は「働き方改革」を気にしているようですが、そもそも多くの漁業従事者の就労環境には上記に述べたような水産業ならではの特徴があるのです。
そのことをよく理解した上で、いま自分がどのような会社に、どのような雇用形態で従事しているのか、自分自身の置かれている就業環境についてしっかりとつかんでみましょう。
まずはその就業環境について職場内で相談してほしいところですが、質問者の職場ではそれがなかなか難しいとのことですので、外部に相談することになるでしょう。
その場合の相談先としては、所属している地域の漁協や業種別の生産組合などが考えられます。そこで現状について詳しく説明するためにも、まずは就業規則があれば、その内容を再度確認してみてください。
最近では、SNSのコミュニティやグループなど、漁業従事者同士が気軽に悩みを相談し合える場所がありますので、そうしたところに入ってみるのもおすすめです。
そうした場所で悩みを語り合えれば、気持ちが軽くなるでしょうし、そうやって語り合う中で解決策が思いつくかもしれません。
それでも、どうしても職場環境に耐え切れない場合には、思い切って職場を変えるのも手だと思います。就業したい地域がはっきりしている場合には、該当する都道府県の漁業就業支援窓口(漁業就業支援センター、漁業就業促進センターなど、自治体によって呼び名が異なる)に相談するか、全国漁業就業者確保育成センターが運営する「漁師.jp」で全国の漁業の担い手を募集していますので、アクセスしてみるといいでしょう。
今後とも漁業の担い手として継続して働きたいのであれば、きっと自分に合った職場があるはずです。諦めないで探してみてください。