私たちの地元に親子で漁師をしている家族がいます。
その親子が漁師の間で厄介者扱いされていて、漁師間の人間関係でかなり揉めています。
例えば、その親子は、他の漁師が漁場の指定区域から少し出て漁をしただけで、ライバルでもないのに、海上保安庁に密告したりするのです。
確かに正論ですが、あまりに正論ばかりを振りかざし、漁法が違う漁師まで密告するので、地元の漁師たちからかなり嫌われています。
あまりにもそういったことが続き「あの親子だけは許さない」と恨みを持つ者までいて、かなりギスギスした雰囲気です。
このような状態ではトラブルやケンカばかりで、楽しく仕事ができません。
また、新しい人材も入って来にくくなるのではないかと危惧します。
もっと良い人間関係の中で仕事ができたらと思うのですが、こうした人間関係のトラブルはどのようにして解決していけばいいのでしょうか。
(長崎県・溝口さん/仮名・50代)
馬場 治
東京海洋大学名誉教授
「底びき」と「はえ縄漁」の両者間で一緒に地域活動などに取り組み、相互理解を図りましょう
漁業に限らず、またどこの地域に限らず起こり得る状況で、これといった解決方法はないでしょう。
まず、「底びき網」と「はえ縄漁」は、そもそも同じ漁場で同時に存立するのが難しい漁法であることを理解しておくべきです。
はえ縄漁(底はえ縄漁)は釣り針の付いた縄を海底に這わせて魚がかかるのを待つ漁法です。
他方、底びき網は網漁具で海底を引く漁法です。
つまり、はえ縄が置かれている海底を底びき網で引けば、はえ縄が底びき網で絡め取られて操業できなくなります。
このようなトラブルを防ぐために、漁法間で漁場区分がされているのが一般的ですので、はえ縄漁師さんが底びき網の漁場違反に対して敏感に反応することは当然の反応といえます。
また、そのことを保安庁に通報することは密告ではなく、当然の通報行為といえます。
もし、このような通報行為が、他の漁業者(底びき網以外)に対しても頻繁に行われていて、その頻度が度を超しているようであれば、通報する方の性格的な問題も考えられます。
しかし、はえ縄漁師が底びき網だけに対してこのような通報行為をしているのであれば、単に底びき網の漁場違反に対して反応しているだけとも考えられます。
同じ地域社会で仲良くするためには、やはり双方が相手の気持ちを思いやって過ごすことが必要です。
はえ縄漁の方も、意固地になって通報を繰り返しているのかもしれません。
もしそうであるならば、一度誰かに仲介してもらい、お互いの考え方を披露し合うことで解決の糸口が見つかるかもしれません。
東京湾(東京、千葉、神奈川の1都2県が操業)のアナゴ筒漁業(はえ縄漁法)は、県知事許可が不要な自由漁業に分類されていますが、底びき網と操業時間を互いに調整する(底びき網が操業を終えたころに筒を海底に敷設し、底びき網の出漁前に回収する)ことによって同じ漁場を共有しています。
そこでは、同じ漁業集落に暮らす異なる漁法の漁業者間で日常的に会話が行われていて、地域の祭礼にも両者が参加することで良好な関係が築かれ、自然と問題解決が図られています。
こうした地域を参考に、両者間で何か一緒に取り組めることがないか、そしてそれを通じて相互理解が深められないか検討してみてはいかがでしょうか。