水産会社でブリの養殖をしていますが、違う魚種の養殖に挑戦しないかという話が出ています。
個人的には、需要が高く、時期に左右されないマグロ養殖に興味を持っているのですが、同僚から「マグロは餌代が高いから売上が上がらないのでは」と言われました。
確かにマグロは成長するまでにたくさんの餌を必要とするので、採算が取れるのか心配ではあります。
しかし、マグロ養殖の研究開発が進んでいるという話も耳にするので、餌代も削減できる方法はあるのではないかと希望を持っています。
そこで、マグロ養殖の際に、餌代のコストを削減できるのかどうか、教えてください。
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
マグロの成長速度に合わせた給餌を行うことが餌代のコスト削減のポイント
マグロ養殖の餌の種類と費用について
養殖マグロの餌は、主にアジやサバといった生餌が基本となります。
生餌は、人工飼料と違い、自然に近い環境下で捕獲活動に即した餌であるため、食いつきが良く、動物性たんぱく質が豊富ですが栄養バランスを考慮してイカ、サバ、マイワシなど魚種を組み合わせて与える特徴があります。
マグロは、他の魚と比べ運動量が多くエネルギーが必要なため、与えた餌の量に対して体重が増えにくい魚です。そのため、1kg成長させるごとに約15kgの生餌が必要だといわれています。
日本でのマグロ養殖では、近海で捕獲した天然の幼魚(体重:100~500g程度)を2、3年かけて成魚(体重:30~50kg以上)まで飼育して出荷するのが一般的です。
そのため、マグロの個体数が多ければ多いほど、年数分の生餌が必要となり、さらに、購入した生餌の維持・管理にも冷凍保管が必要で電気代など高額なコストがかかってしまうのが現状です。
マグロの養殖方法についてはこちらをご覧ください
「いつか養殖してみたいので、マグロ養殖の仕組みを教えてください」
高額な餌代を安くする方法
マグロを養殖する上で、コストの大半を占めるのが「餌代」です。生産コストの約7割を占めるといわれています。
高額な餌代を安くする方法として、主に以下の3つの方法があります。
・複数の個人からなる協業体で共同購入し、生餌の単価を抑える
・マグロが餌を食べる最適なタイミングを検証し、最適な給餌量を図る
・人工飼料(ペレット)に切り替える
共同購入する場合、大量の餌を購入することで、餌業者と値引き交渉ができる可能性があります。
生餌の購入単価を安くするためにも、協業体と相談してみるのも一つの方法でしょう。
また、無駄な給餌を減らすために、マグロがよく食べるタイミングを検証し、効率よく餌を与える方法もあります。
マグロの食べムラを把握することで、食べる時にしっかり餌を与え、食べない時は少量しか与えない。このやり方は、餌代を抑えるために、多くの養殖業者が採用している給餌管理方法です。
しかし、費用などや差別化のため、最近では人工飼料(ペレット)を与える漁業者も増えてきています。
人工飼料を与える場合、食いつきのよい、ペレットを見つける必要があります。
養殖マグロのエサについてはこちらもご覧ください
「マグロ養殖でエサに配合飼料を与えることは可能ですか?」
マグロ養殖で与える餌の注意点
餌代が高い
餌代が高いのは大きなデメリットです。
年々養殖業が盛んになるにつれ、餌となる生魚の乱獲や温暖化などの環境変化により、自然界の生態系の乱れが指摘されるようになりました。
そのため、生魚は不足し、生餌が高騰するという問題が生じています。
人工飼料においても同様です。
日本では、人工飼料の主原料である魚粉のほとんどを輸入に依存しています。
世界的にも、乱獲や温暖化などの環境変化による生態系の乱れから、魚粉の原料となる魚を十分に確保することが難しく、品薄となり価格が高騰しているというのです。
生け簀の管理
マグロは非常にデリケートな魚として知られており、他の魚に比べ、育てるのが難しいといわれています。
マグロ養殖では、餌の食べ残しで生け簀が汚れないように注意する必要があります。
病気への対策
生け簀が不衛生な状態だと、養殖しているマグロが病気にかかり、ほかのマグロに連鎖してしまう可能性もあります。
そのため、常に衛生管理を整え、場合によっては、抗生剤やビタミン剤を投与しましょう。
まとめ
マグロ養殖はまだまだ発展途上です。
そのため、さまざまな研究によってこのようなデメリットも徐々に解決することになるでしょう。
日本におけるマグロ養殖の協業体は、年々増加傾向にあります。時間をかけて自分なりの養殖方法を探すことから始めてはいかがでしょうか。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。