北関東で果樹の観光農園を経営しています。
話題を集めるために、新しい作物の果物狩りをはじめようと思うのですが、他の農家さんがやっている果樹は避けたいので、珍しい作物をつくろうと考えています。
いろいろと調べているうちに、北海道ではハスカップという果樹を育てて、ジャムやお菓子用などの加工用として食品メーカーに卸しているので、観光農園にも適しているのではないかと思います。
ハスカップ狩りとジャム作りをセットにしたら、たくさんのお客さんに来ていただけるのではないかと思い、栽培してみたいのですが、北海道以外でも栽培することは可能なのでしょうか?
ハスカップの栽培適地を教えてください。
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
ハスカップは寒冷地以外でも栽培可能。栽培適地や育て方をご紹介します
ハスカップとは?
ハスカップとは、ブルーベリーによく似たスイカズラ科の落葉果樹です。
木は1~2m程度までしか伸びず、受粉や収穫がしやすい高さです。東北や北海道などの冷涼な気候が適していますが、そのほかの地域でも栽培は可能です。
ハスカップは、自家結実性が低い(自分の花の花粉が、自分の花の柱頭についても結実しにくい)ため、他の品種を受粉樹として混植する(数品種を一緒に植える)ことが必要で、実がなるまでには挿し木した苗で2~3年かかります。
栽培地域にもよりますが花芽分化(翌年の花を樹の中で準備し始める時期)の目安は6~7月頃で、花芽は混合花芽(芽の中に翌年の花と芽が伸長して枝になる元が含まれており、翌年の春になるとその芽からは芽が伸長して伸長した枝に花もつくこと)です。
ブルーベリーに似て酸味がある実をつけ、アントシアニンを豊富に含みます。そのままでも食べられますが、酸っぱくて(酸度が高くて)傷みやすいため、加工食品としても活用されています。
栽培適地は寒冷地だけ?
ハスカップは東北や北海道などの寒冷地で主に栽培されていますが、そのほかの地域でも朝と夜で寒暖差のある(高山:標高の高い)地域ならば栽培は可能です。
寒冷地では3月に苗木を植え付けますが、それ以外の地域では11~12月(落葉した時期)に苗木を植えつけると良いでしょう。収穫はどの地域でも5~6月ごろが目安となります。
寒冷地以外でハスカップを育てられる適地は?
東北以北以外でハスカップを栽培している地域は、長野県などが挙げられます。
寒冷地で栽培をする場合は1日を通して日当たりの良い場所を選ぶ必要があります。
ハスカップは和名をクロミノウグイスカグラと言いますが、同じスイカズラ科にウグイスカグラがあり、これは日本全国で栽培が可能です。
しかし寒冷地以外で栽培を行う場合は、午前中だけ日が当たるような場所であれば問題ありません。ハスカップは暑さにとても弱い果樹のため、夏場は朝と夜で寒暖差があるような地域が良いでしょう。
ハスカップの栽培方法
寒冷地以外でハスカップを栽培する方法を紹介します。
果樹農家の方であれば難しいと感じる作業は特にありません。栽培の流れのほかに人工授粉や剪定のポイントなどを紹介します。
苗木の植え付け
ハスカップの苗木の植え付け時期は11~12月頃の落葉した後がおすすめです。
土壌は弱酸性を保てるよう、土にピートモス(ミズゴケやスゲなど、植物が堆積して作られたものを乾燥させた土壌改良資材)を混ぜて植え付けましょう。
また、水持ちの良い土を好むのでピートモスに腐葉土をブレンドしたり、鹿沼土小粒を混ぜたりするのも良いでしょう。
何年か栽培した後に株が混んできたら、春先に芽が動き出す前の2月ごろまでに混みあっている枝を剪定します。
花が咲いたら人工授粉を行う
ハスカップは自家結実性が低く自家受粉しにくいため、受粉樹として種類の違う(異なる品種の)ハスカップも複数本植え付けるようにしましょう。
花が咲いたら花を摘み取り、他の品種の花とこすり合わせて花粉をつけ人工的に授粉を行います(ただし、どの品種の花とどの品種の花をこすり合わせればベストなのかはわかっていないので、できるだけ多くの種類(品種)の花の花粉をいくつもの花につけた方がよいでしょう)。
この作業を行わないと上手く実がつかない可能性があります。
安定して結実するよう、人工授粉は必ず行いましょう。また、ハチなどの訪花昆虫を利用し、受粉してもらうのも一つの方法です。
ただし、確実に受粉させるためには人工受粉がお勧めです。
水管理や肥料のポイント
ハスカップの水管理は自然任せ(降雨)で問題ありませんが、浅根性であるため、土壌表面が乾燥すれば水やりをしましょう。
水やりをする時はたっぷりやりましょう。
肥料は毎年11月に有機質肥料を与え、2月に速効性の化成肥料を(基肥)として施します。
ハスカップの木は、地面から1〜2mの枝が何本も伸びてきて、3〜5cmの間隔で枝の両側に葉っぱを対でつけていきます。
また、葉は楕円形で両面に小さな毛がわずかに生えておりよく見ると表面が粉っぽく見えます。
新しく伸びた枝の葉の付け根に垂れ下がるように2つずつラッパのような形をした花を咲かせ、やがて2つの子房が合体して一つの実となります。
剪定
ハスカップの木が上手く育つよう、剪定を行います。
時期は、積雪が少ない地域では、12月上旬から2月下旬が目安です。
新しく苗木を植える時期と同時に行うと良いでしょう。
良く育っている枝がさらに成長できるよう、混み合っている枝を樹冠内部までしっかりと日があたるように地際から間引いていきます。
何年も栽培している場合は、株元から出ている古い枝を優先的に抜いていきます。
収穫
ハスカップの花は、剪定を行い残った枝の先端付近に5月ごろからつき始めます。
開花後約1ヵ月で果実が着色し始め、その後1週間程度で青黒く(または赤黒く)なり成熟します。
果実は、成熟し、やわらかくなったものから順次収穫を行いますが、傷みやすいため加工食品用として販売する場合はすぐに出荷する必要があります。
また、果実が過熟になると落果しやすくなるとともにつぶれやすくなるため収穫のタイミングは重要です。
収穫時期や収量を増やす方法についてはこちらをご覧ください
「ハスカップが収穫できる時期はいつ?」
栽培可能になるまでの期間も考慮する
ハスカップは、果実を収穫できるようになるまで最低でも2~3年ほどの期間が必要です。
そのため、他の果樹と並行して栽培を始めてみることをおすすめします。
寒冷地以外では珍しいため、加工食品用として出荷するほかにも、観光農園であればハスカップ狩りのサービスを提供することも可能です。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。