フグは他の魚種と比べると市場単価が高く養殖業者から人気が高い魚種だと聞き、フグの養殖に興味を持っています。
現在は青魚を中心に養殖していますが、経営のことを考えると、単価が高い魚種の養殖もはじめていきたいです。
しかし、うちの地域ではフグ養殖を行っている会社はなく、情報収集をするのにも、人手がなくて、動くことができません。
まずは、フグ養殖はどんな海域で行えるのか、どのように養殖すればいいのかなど、基本的なことが知りたいです。
フグは他の魚種と比べると市場単価が高く養殖業者から人気が高い魚種だと聞き、フグの養殖に興味を持っています。
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中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
フグは西日本の穏やかな海域で養殖され海面養殖方法や陸上養殖方法があります
フグの養殖が行われている主な産地
養殖フグの主な産地
農林水産省の令和3年海面漁業生産統計調査によると、フグは福井県から西の温暖で穏やかな海域で養殖されています。
都道府県別に見ると長崎県が1,038トンで圧倒的に多く、全体の35%を占めています。
次いで、熊本県が478トン、大分県が254トン、佐賀県が216トン、香川県が190トンとなっています。
養殖フグの生産量
令和3年の養殖フグの国内総生産量は2,833トンで、魚種別生産量において、フグは第7位となっています。
海面養殖業総生産量の約1%を占めており、フグは主要な養殖魚種といえます。
天然物と養殖の見分けかたについてはこちらをご覧ください
「天然ふぐと養殖ふぐの違いは?見分け方が知りたい!」
フグの養殖方法とは
フグの養殖は、昭和8年に山口水試瀬戸内海分場で短期間飼育したのが始まりです。
価格が下がる初夏の天然フグを、価格の上がる初冬まで育てる短期蓄養が他県でも広まりました。
そして、昭和54年に養殖フグが市場に流通されるようになっています。
養殖されているフグの種類
主に養殖されているフグは、トラフグです。フグの中でも高級魚とされ、成長が早く大型になります。
天然フグは尾びれが大きいのが特徴です。広い海をゆったりと泳いでいるため、尾びれは長く綺麗な傾向にあります。
産卵のために沿岸に近づく12月から2月に旬を迎えます。
それに対して養殖フグは、ストレスからお互いを噛み合うこともあり、尾びれが傷ついた個体が見られます。天然と違って旬がなく、一年中出荷されています。
フグ養殖の種類
フグの養殖方法には、「海面養殖」と「陸上養殖」があります。
一般的な方法は海面養殖で、沿岸の穏やかな海にいかだを浮かべ、網で囲ったいけすで育てる方法です。
養殖方法の中でも設備投資は少なめですが、自然環境の影響を受けやすくなります。
一方、陸上養殖は、陸上の水槽などを使ってフグを育てる方法です。
海水をポンプなどで引き込み飼育するかけ流し式と、飼育水をろ過させて循環して使用する閉鎖循環式があります。
いずれも海面養殖に比べて設備投資が高めですが、閉鎖循環式は自然環境の影響を受けないメリットがあります。
フグの種苗生産
種苗とは養殖で飼育する稚魚のことで、種苗生産は安定した出荷をするために重要です。
種苗生産にはいくつかの方法がありますが、フグ養殖の場合は産卵時期の天然親フグを漁獲して産卵させた後、ふ化した稚魚を育てています。
つまりフグの種苗生産においては、良質な天然親フグの確保が安定した生産に欠かせません。
また、稚魚を育てていく過程で、歯切りとよばれる養殖フグ特有の作業が必要になります。
フグは、上下2枚ずつ歯が生えており、そのままにしておくと、お互いを傷つけあったり、いけすの網を食いちぎったりしてしまうため、歯切り作業を行います。
一つ一つ手作業になり手間がかかりますが、商品価値を落とさないためにも必要な作業です。
フグ養殖で与える餌
養殖で使用するフグの餌は、モイストペレットとドライペレットの2種類があります。
モイストペレットは水分を含んだ固形の餌で、生魚と粉末の配合飼料を混ぜ合わせ、粒状にして作ります。
ドライペレットは水分をほとんど含まない乾燥したエサのことで、常温保管が可能です。
フグの大きさや海水温の状態を見ながら、栄養剤等の混ぜ合わせる割合や粒の大きさを変えて餌を与える必要があり、最も手を掛ける作業になります。
給餌における注意点はこちらをご覧ください
「トラフグの養殖で使う餌の種類や与え方は?」
フグ養殖の工夫
無毒フグの実用化
フグは生まれたときは毒を持っておらず、天然の餌を接種した際に毒性物質が濃縮され、テトロドトキシンという毒を蓄積していくと言われています。
理論上は、毒の原因となる餌を工夫することで無毒フグを育てることができますが、完全な無毒化はできておらず実用化には至っていないのが現状です。
循環型陸上養殖や淡水使用の取り組み
海のない滋賀県で、循環型陸上養殖に取り組んでいる企業があります。
人工海水を使い、餌や排泄物で汚れた海水は浄化し、循環して使用しています。
また、長崎県や岐阜県では通常の海水よりも低い塩分濃度で飼育する養殖に取り組んでいます。
地下から汲み上げた塩水と淡水を混ぜて低い塩分濃度の飼育水を作っています。
一般的な魚類の体液と同じ塩分濃度の飼育水を使用することで、フグのストレスを減らし、通常よりも30%ほど成長速度を早めることが可能です。
フグを養殖するメリット
天然フグと違い、安定して出荷できる点がフグを養殖するメリットになります。
水産資源研究所の資料によると、天然フグ漁獲量の2019年の概数値は161トンで、減少傾向が続いています。
天然フグの漁獲量は海の資源量によって影響されますが、養殖の場合は天然と比較すると、安定した出荷が望めます。
また養殖では、1年中出荷できる点もメリットとして挙げられます。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。