瀬戸内で刺し網を使った漁を営む者です。
地元に小さな干潟があり、昔はアサリなどの二枚貝をはじめ、エビやかになどもたくさんいました。
その干潟を復活してアサリ狩りができるようにしたいのですが、水産庁が行っている「水産多面的機能発揮対策」事業で、干潟の保全も支援しているので、これを使えないかと考えています。
広島はアサリの産地で、漁場を保全する活動が盛んです。
これまで活動を参考に、硬くなっている干潟の泥を柔らかくするため、まずは耕うん作業に取りかかろうと思います。
しかし、小さな耕うん機(管理機)を使うか、トラクターを使うか、または手作業で耕うんするのがいいか少し迷っています。
なるべく多くの人に参加してほしいので、手作業でもいいかなと考えていますが、その場合どのような道具を使うのがいいでしょうか?
また、同時にアサリを食害する生物や海藻の除去も行いたいのですが、人員の配置についても悩んでいます。
地域住民で取り組む際に必要なことがあれば教えてください。
(広島県・清水清彦さん/仮名・50代)
川上貴史
株式会社水土舎 主任研究員
保全活動の方法だけでなく、継続して活動を行うための組織づくりも重要です
これから取り組みを始めるということなので、干潟保全活動の取り組み全般について、ご回答させて頂ければと思います。
干潟保全の活動は長期にわたることが多く、一度回復しても、何もしないでいるとまた悪化していく可能性もあります。
そのため、長期で継続して活動を行っていくための組織づくりが重要となります。
とくに、保全活動は地元に密着した形で行っていかなければならないので、地元の理解や協力体制は欠かせないものとなります。
体制づくりは、地元の有力な主導者が必要となり、さらに関わってもらう方々の意見を集められることが重要です。
組織としては、誰かひとりの意見で進めてしまうのも、みんなの意見に振り回されてしまうのもダメなので、なかなか難しいことだと思います。
そのため、まずは活動の意味、意義を知ってもらい、それに賛同して頂ける方(はじめは少数でも構わないと思います)で始めてはいかがかと思います。
活動を行っていく上では、質問にあるような「改善方法」や「方針」に疑問や問題が生じると思います。
その場合は、水産専門の県や市の職員や、大学の先生に直接意見を求めるのも良い方法かと思います。
また「水産多面的機能発揮対策」を利用するのであれば、そういった活動を行っている他の組織に意見を伺うなども有効な手段かと思います。
組織外の意見を取り入れることは、活動のマンネリ化や意欲低下、成果が上がらない状態を防ぐためにも、重要なことです。
活動方法としては、主に3つの行程からなると考えております。
「1、干潟生産力減少要因の推定」「2、その改善策の検討・実施」「3、活動効果の検証」といった手順で行うのが効率的かと思います。
更に2と3は継続して繰り返し行っていくことになると思います。
まず「1、干潟生産力減少要因の推定」について、「底質が硬く締まっていること」が要因となっているようですが、本当にそれだけが原因でしょうか?
環境変化の要因としては、さまざまなものがあり、ヘドロの堆積、潮流の変化による海水交換の減少や砂の流出、波浪の影響の増大、アマモ場等の衰退など、たくさんの要因があります。
干潟が豊かだったころを思い出しつつ、当時から大きく変わった点などを考えながらその要因に対処していただければと思います。
「2、その改善策の検討・実施」に関してもさまざまな要因があり、それによって対策も大きく異なるため、改善策は十分に検討したうえで実施して頂ければと思います。
実際の手法として、今回は耕うんや食害生物等の駆除について少しご提案できればと思います。
まず初めに耕耘についてですが、耕うん対象の面積や底質の状況等によって大きく異なります。
手作業で行うのであれば、鍬やスコップといった一般的な農具が準備しやすく扱いやすかと思います。
しかし、耕耘自体は人力ではなかなか重労働となるため、耕耘機やトラクターなどを利用される方が良いかと思います。
また、その際に食害生物等の除去を人力で行うのが良いかと思います。
こちらの駆除は、どうしても手作業で行うことになると思いますので、耕耘は機械で、駆除は手作業でと分担するのが良いかと思います。
そして「3、活動効果の検証」についてです。
効果検証は改善策の検討に重要ですが、さらに、活動に参加する人々の意識向上や、やる気にもつなげられるものです。
後者の効果としては、やはり自分たちが行っている活動がどういった成果につながったのか、実際に誰にでも見てわかる実績が上がれば問題ないですが、なかなかそう上手くいかないと思います。
そこで、どういった取り組みを行った結果、この部分は成果が出たなど、具体的に数字でわかるような検証を行っていくことが取り組み継続にとって重要かと思います。
検証の方法としては、活動前からのモニタリング(生物調査や底質調査など)を行う方法や、対象干潟が広い場合は、非活動個所を設け、活動個所との比較をする方法も良いかと思います。
最後になりますが、実際にはすぐに成果を上げることは難しいですが、地道に活動を続けていけば着実に理想に近づいていけると思います。
しかし、活動を続けていくこと、活動を続ける人を育てる、意識を育てることは非常に難しいことではないかと思っております。
せっかく活動を始められるのであれば、この先、何十年、何百年と地域の人たちで、豊かな干潟が維持されるような活動を行っていただければと思います。