私は、5年前に東京から実家がある新潟に戻って、夫と2人で米と野菜をつくっています。
先日、SNSで「2023年の10月からいろいろと制度が変わる」という記事を発見。税率や税額に関する「インボイス」という制度が導入されることがわかりました。
請求書が必要になる?というような話だったので、ちょっと調べてみましたが、売り上げが1,000万円以上の農家にしか関係なさそうだし、我が家は農協や直売所に卸しているだけだから関係ないなと思って、そのままにしてしまいました。
しかし、よくよく考えてみたら、友人たちに直接販売している米や野菜についてはどうなるのでしょうか?
知り合いにはLINEやメールで「いつまでにいくら振り込んでね」という簡単なやり取りで済ませていたのですが、インボイス制度が始まったら、私も請求書を作ったりしなくてはいけないのでしょうか?
よくわからず、不安です。
(新潟県・高橋めぐみさん/仮名・30代)
田中耕一
田中耕一税理士・中小企業診断士事務所
販売先により影響の範囲は異なるので、事前に取引先に確認しましょう
インボイスとは、売り手が買い手に対し、「正確な適用税率(8%又は10%)や消費税額等を伝える書類」のことです。
消費税を国に納める課税事業者(売上高1,000万円以上の事業者)にとっては、この書類があるとその分の納税額が減りますので、「インボイス=金券」とも言えます。
そして、このインボイス(金券)を発行するには、消費税の課税事業者で、かつ、登録番号を有する者でなければなりません。
つまり、相談者さんのような免税事業者(売上高1,000万円以下の小規模な事業者)は、自ら課税事業者になることを選択しない限り、インボイスを発行できません。
農協へ出荷する場合、次のふたつの条件のもとに委託した場合は、インボイスの交付義務が免除されます。
通常の出荷はこれに該当すると思われますので、影響はない方が多いと思われます。
・出荷した農林水産物について、売値、出荷時期、出荷先等の条件を付けない(無条件委託方式)
・平均した価格をもって算出した金額を基礎として精算する(共同計算方式)
直売所への出荷は、免税事業者の方にとっては、重大な影響を及ぼします。
直売所に販売を委託されている場合は、販売所の運営方法に左右されます。
販売所の運営方法には複数ありますが、現実的なところで考えられるのが、取引条件にインボイスを求められることです。
そうなれば、相談者様は直売所との取引を継続したければ、インボイス発行業者になるための登録を申請する(課税事業者になる)必要が出てまいります。
また、課税事業者となった場合の消費税の納税は、この直売所への委託販売分だけで良いのではなく、農協への出荷や直売している分も含めてすべてが対象になります。
なお、家族名義で出されている分にも影響を及ぼします。
次に、直売の場合ですが、こちらは販売する相手により、影響が違います。
インボイスは、取引相手から求められた場合に発行する義務がありますが、一般消費者や免税事業者はその権限がありません。
問題は、スーパーなどの小売店、レストランなどの飲食店経営者が課税事業者の場合です。
これらの事業者へ直接販売されている場合は、取引条件にインボイスを求められることが考えられます。
他から購入できない特別な生産物である場合を除き、課税事業者としか取引しないという事業者が多いと予想されます。
そうでなければ、消費税分の値引きを求められるかもしれません。
まずは、事前に取引先にご確認ください。そのうえで、取引を継続するのかしないかの判断をしてください。