耕作放棄田で和牛を放牧をしたい。どのような飼料作物を栽培したらいい？

YUIME Japan編集部 / 2022.08.30

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中国山地にある集落で、農地の保全管理を行う組合（中山間地域等直接支払交付金の集落協定組織）の代表を務めています。

私たちの集落でも、高齢化と後継者不足が進んでいて耕作放棄地が増えています。

少しでも耕作放棄地を解消していきたいため、地元の和牛農家と連携して、担い手がいなくなった田んぼでの放牧を進めたいと考えています。

現在、山に囲まれた段差のある場所に、草ぼうぼうの水田が5枚ほどまとまってあるのですが、その広さは1ヘクタールほど。
標高が一番低い段の田んぼは雨が降ると少しぬかるみますが、そのほかは乾田化しています。

そこを放牧地にするため、地権者と話し合いも始めています。

田んぼに生えている草だけでは栄養が足りないと思うので、放牧して一通り草を食べ終わったところで、秋に飼料作物の種を播いて放牧地として管理していきたいと思います。

何種類かの飼料作物の種を播いた方が栄養バランスのよい牧草が生える放牧地になると聞きましたが、耕作放棄田に播くのに適した組み合わせを教えてください。
（広島県・松本淳一さん/仮名・60代）

放牧地ではイタリアンライグラスやバヒアグラスがおすすめですが、地域などに見合った品種を選びましょう

相談者は広島県の方ですが、公益財団法人広島市農林水産振興センターが発行している「ひろしま農林水産振興ニュース」によると、広島県内ではご相談内容のように耕作放棄地を活用して、和牛放牧をしている地域が多くみられます。

その目的としては、和牛の飼養管理が省力化できて、農村景観の保全や有害鳥獣の被害軽減にもつながるからとのことです。

同センターによると、広島県内の放牧地では「イタリアンライグラス」を中心に、「バヒアグラス」と混ぜて播種することが主流になっているそうです。

イタリアンライグラスは地中海地方原産の1年草のイネ科牧草ですが、一般には「ネズミムギ」の名前でおなじみの雑草です。

世界中に分布し、冬季の成長が早いので、一般的には採草用に利用され、暖かい地域では冬季の放牧用にも利用されています。現在栽培されている品種は30種以上あります。

一方、バヒアグラスは南米原産の多年草のイネ科牧草で、日が当たらない森の中や乾燥地帯でも密生し、暑さや寒さにも強いので、放牧用にも乾草用にも利用されます。

旱ばつや洪水による浸水などの不良環境にも強いので、年間を通した放牧地ではイタリアンライグラスとともに育てられることが多い品種です。

しかし、広島県が2016〜2017年にかけて行った「自給飼料作物の安定生産に向けたイタリアンライグラスの品種の検討」によると、同県の畜産農家では主にイタリアンライグラスが自給飼料作物として推奨されていますが、種子代が安いという理由で、品種が適切に選ばれていないケースもあるそうです。

普通種を栽培している畜産農家では、必要なだけの収量が確保できないので、乾草を追加購入しなければならず、結果として飼料費がかさんでいる農家もあると言われています。

調査は、広島県内を標高や平均気温ごとに北部・中部・南部の地域ごとに分けて、経営主体が畜産専業農家なのか、集落法人なのかで区別して調べていますが、特に目立ったのは、畜産専業農家では収量が安定して、倒伏しにくいイタリアンライングラスが推奨されているにもかかわらず、種子代が安いという理由で、普通種を栽培している農家が多かったことがわかりました。

普通種を栽培している農家では、その年の天候によっては収量が確保できず、収穫作業の遅れで倒伏してしまって、収穫ロスになる事例が見られました。

また、集落法人では主食用の米の稲刈りが終わった後に、イタリアンライグラスの種をまくため、播種に適した9月中旬〜10月下旬に間にあわず、春まきをする農家もいるということがわかりました。

広島県では、雪印種苗やカネコ種苗からさまざまな品種のイタリアングラスを取り寄せ、できるだけ長期放牧するため再生力が旺盛な品種を調べています。

いずれの県の畜産センターでも、その地域にあった飼料作物の品種選定を調査していますので、相談者さまも、地元の農業改良普及センターに、品種の選定、播種時期、排水対策などを相談してみてはいかがでしょうか？