水稲と野菜を作っている農家です。冬の朝晩に氷点下に、日中は10度に満たない気候ですが、山から流れ出した雪解け水を使って育てているので、農業を営むうえでは最高の環境です。
慣行栽培を行っていますが、極力農薬を控えながら栽培しています。
春から秋は休む間もないほど忙しいのですが、米の収穫が一段落すると、冬の間は比較的余裕をもって過ごしてきました。
この期間は畑で白菜、大根、ブロッコリー、ほうれん草などを育てていますが、端境期(はざかいき)で品薄になることから、トンネル栽培を進めようと考えています。
そこで、トンネル栽培のコツやおすすめの品種を教えていただけないでしょうか?
(群馬県・田村さん/仮名・50代)
五十嵐大造
東京農業大学国際食料情報学部 国際食料情報学部(前教授)
トンネル栽培にはほうれん草や小松菜がおすすめ。資材はポリ塩化ビニルか農POフィルムを使いましょう
雪が少ない平野部と想定して回答いたします。
トンネル内部の気温は、日中は露地よりかなり高温になります。晴天日には、仮に外気温が10度未満でも、トンネルのビニールが密封状態ならば内部は30度以上になることもあります。
一方で、夜間は露地よりも温度は下がります。これはトンネルのみならず、べたがけ(不織布や寒冷紗などで畝全体を覆うこと)やハウスでも同様です。
夜間は「放射冷却(地面、植物の葉などから赤外線が放出されて冷えること)」によって低温になります。
最も気温が低下する早朝で、地上10センチと1メートルの気温を比較すると、後者の方が気温は高くなります。
地表近くに植えられている野菜は、高所の空気にさらされるほど葉温が上昇します。つまり野菜にとって風は温風というわけです。
温風をビニールで遮断するトンネルは、遮断されない露地と比較すると、内部の気温や葉温は露地よりも低下します。
昼間は十分に露地より高温ですが、逆に夜間は冷えるという点を理解しましょう。
トンネル栽培に適した野菜ですが、冬季に露地栽培すると寒さで枯れてしまう種類は適しません。
そこで、枯れなくとも露地では生育が進まない、という性質ならばトンネル栽培が可能と考えられます。
つまり昼間の高温が生育を大きく促進するのだと思います。具体的にはほうれん草、小松菜など、耐寒性の高い葉菜類が適しているでしょう。
夜間はトンネルのビニールの裾を上げて(屋根だけにして)、風通しをよくすれば、露地よりも2度程度の保温が得られます。
これだけで野菜の葉色がくすんだ色から緑色になります。夜間もトンネルを閉めたままですと、露地よりも温度が低下して、耐寒性の弱い野菜は枯れてしまう恐れがあります。
トンネル資材はポリエチレンではなく、ポリ塩化ビニルか農POフィルム(農業用ポリオレフィン)にしてください。ポリエチレン製ではトンネル内部からの放射冷却を弱めることができません。