ハウス栽培で、春まきブロッコリー、トマト、ほうれん草などを中心に栽培しています。
近所の高齢の農家さんが廃業してしまい、縁あって農地を譲り受けることになりました。
ハウスを建てる余裕がないので、まずは露地栽培で夏まきのブロッコリーに挑戦し、秋から冬にかけて収穫しようと考えています。
しかし、気になっているのは台風対策です。
ハウスでやってきたので、露地での台風対策の経験がありません。
寒冷紗(かんれいしゃ)でトンネルを作って保護しようと考えていますが、その際に気をつけるポイントを教えてください。
(栃木県・佐藤さん/仮名・30代)
鈴木雅智
ブロ雅農園
根が活着する前であれば、大型の寒冷紗を「ベタ掛け」するのが効果的です
神奈川県の三浦半島で多品目栽培を行っているブロ雅農園です。
三浦半島は年間を通して暖かい場所です。ご相談者様とは地域特性が違うところもあるかもしれませんが、ご参考にしていただけたらと思います。
我が家は多品目農家ですが、メインの野菜は夏まきブロッコリーです。こちらの地域では早くまきすぎると病気の発生などのリスクが増すので、8月のお盆を過ぎてから播種します。
また、播種は全国的にはセルトレイでの播種が一般的かもしれませんが、いまだに三浦半島では苗床で播種をする場合が多いです。
露地での台風対策ですが、ブロッコリーで一番怖いのは「苗床の時」と「定植後の植えたばかりの苗」です。
これらの対策は、寒冷紗のトンネルではなく、寒冷紗の「ベタ掛け」で対応する場合が多いです。
苗に対してべったりと直接、寒冷紗をかける方法です。苗にダメージがあるのではないかと心配になるかもしれませんが、海に囲まれ、風の被害に悩まされている三浦半島で一番の効果を得ることができる方法とされています。
ベタ掛けの場合、台風が過ぎたらすぐにはがすので、換気も温度もあまり気にする必要はありません。上から押し付けることになるので、折れる心配があるかもしれません。
しかし、苗床と定植時の苗は小さく、やわらかいため、寒冷紗をはがせば苗は起き上がってきます。もしも強い台風などが来る場合は、寒冷紗を2重にしたり、間に不織布を挟むなどの工夫をしています。
ベタ掛けのポイントですが、苗全体を覆うことができる大型のものがあると作業がはかどります。
ホームセンターなどで販売しているものをこちらでは「1枚はぎ」と呼んでいますが、その3倍のサイズの「3枚はぎ」というものを利用しています。
三浦半島の露地野菜農家は、自分の畑の面積をすべて覆うことができる寒冷紗をもっている方も多いです。ブロッコリーだけでなく、キャベツや大根などもこの方法で対応しています。
また、寒冷紗をとめるピンも重要です。ホームセンターで売っているUの字に曲げて使う鉄ピンを利用します。このピンを狭い間隔で打ち込むほど台風への対策として強くなります。
とはいえ寒冷紗をはがすときは大変ですので、我が家では台風の強さによって、「今回は強そうだから、1歩でいこう」「台風はたいしたことなさそうだから、3歩で留めよう」などと変えています。
根が活着した場合に寒冷紗を行うと、逆にダメージを与えることになります。その場合は何もかぶせず、台風が過ぎた後すぐに海の塩を洗い流し、薬散するという方法を使う場合もあります。
五十嵐大造
東京農業大学国際食料情報学部 国際食料情報学部(前教授)
寒冷紗トンネルはピンやポールで押さえ、内部環境は日射と風に配慮しましょう
寒冷紗はとても丈夫な資材ですので、風にあおられれてバタつかないようにしっかりと「黒丸くん」などの押さえ材と足の長いUピンで押さえつけるのが良いでしょう。
黒丸くんはピンの引き抜きが容易に行えますので、寒冷紗をはがす作業が簡単になります。
台風が強く、ピンだけでは心配な場合は、寒冷紗の上から支柱と支柱の間をグラスファイバー製のポールでしっかり押さえるようにしてください。
トンネル内の環境は寒冷紗の種類によって異なります。一般的に使用されるのは幅の種類も多い「#300(白)」あたりでしょう。
#300あたりですと白の寒冷紗でも遮光率は20〜30%程度ありますので、露地よりも内部の気温は低下すると思われます。
一方、寒冷紗により通気性が低下しますので、風が弱い時には内部の気温が高めになることもあり得ます。すなわちトンネル内の気温は、日射と風に配慮することが大切です。
台風対策ではありませんが、秋から冬にかけて気温が低下してくる時期は、寒冷紗を被覆することによって保温効果が大きくなってきます。
とくに夜間、晴天で放射冷却が強まるような時には、トンネル内の気温は露地よりも1、2度高くなるので、大きな株に成長しやすいですし、花蕾も緑色がより鮮やかになるかと思われます。
なお、放射冷却が強まるときに、トンネル内の気温が露地よりも少し高温になるのは、寒冷紗に通気性があるからこその効果です。
放射冷却が強い冬季の夜間に吹く風は、放射冷却によって温度が下がっている地表や植物の葉から見ると「温風」に当たっているのと同じなのです。茶畑にかけられた防霜ファンはその良い例です。
一方、寒冷紗ではなく、トンネルにビニールシートを使った場合は逆の現象が起こります。トンネル内部の気温が露地よりも低下するからです。
これは、ビニールトンネルによって風を遮断してしまうことで、「温風」を受けられる露地よりもトンネル内で温度が低下してしまうからです。ビニールハウス、ガラス温室でも同様であることを知っておくと良いでしょう。
湿度についてですが、寒冷紗トンネル内では寒冷紗が水分を含むため多少は上昇するでしょうが、通風性もしっかりあるため問題にはなりません。上手に寒冷紗を活用して、良い作物を作っていってください。