ミニトマト「サンチェリーピュア」を中心にハウス栽培しています。サンチェリーピュアは1花房あたり30果前後で収穫量が多く、裂果が極めて少なく、とても育てやすい品種です。
そのためか同じ品種を育てる農家さんが増えてきた印象です。そこで、自分のトマトを少しでも差別化しようと考えています。
いままでは土壌改良や病気予防などのことばかり考えて育ててきました。何か新しい栽培方法はないかと思っていたところ、ニュースで光合成量を測定しながらトマト栽培する話を知りました。
光合成量を測定なんて考えたことはありませんでしたが、調べてみるといろいろな種類の日射計があるのがわかりました。
測定方法や値段もさまざまで、かなり高額なものまであります。まったく何を選んでいいのかわからないので、選び方や効果、設置のコツを知りたいです。よろしくお願いいたします。
(東京都・上野さん/仮名・40代)
小平真李
株式会社farmo
クラウド型のモニタリングシステムなら仲間と共有しながら測定することが可能です
光合成には日射量が影響しますが、日射量以外にも気温や湿度も関係し、この気温と湿度から算出される「飽差(ほうさ)」という値が参考値として使われます。
これは、1立方メートルの空気の中に、あと何グラムの水蒸気を含むことができるかを示す数値です。
この飽差レベルが適正ですと、植物は気孔を開いて光合成に必要な二酸化炭素(CO2)を取り込み、体内の水分を蒸散していきます。つまり日射計だけでは、光合成を完全に把握することはできません。
私どもが開発した「ファーモ」はクラウド型のシステムで「気温・湿度・飽差・土壌成分・地中温・成長点温度・CO2・照度」といったハウス内の状態を示す8つのデータを確認することができます。
光合成については、日射量は照度から換算して算出しておりますので、飽差の値と組み合わせて推定することができます。
設置も室内に通信機、ハウス内にファーモを設置したあと、スマホでアプリをダウンロードするだけです。
データはクラウドに保存されますので、利用開始からのデータが保存されます。もちろん家族や仲間とデータ共有もできます。こういったサービスもあるので、検討してみてはいかがでしょうか?
高山弘太郎
PLANT DATA株式会社/豊橋技術科学大学機械工学系教授
トマト栽培で差別化するためには、日射計で測定するだけでは不十分です
従来のハウス栽培は、外気温が下がる冬の間にハウス内の空気を温めて農作物を育てることで、単価が高くなる冬の出荷量を増やそうというのが目的でした。
しかし最近では、ハウスによって外気と分断するならば、内側の空気中の二酸化炭素(CO2)と湿度をコントロールして光合成を促進させて植物の生長を早め、収量アップにつなげようという考え方が主流になってきました。
オランダなどではすでに20年近く前から主流ですが、日本ではここ最近、活発に行われ始めました。
ハウスの外では二酸化炭素濃度(CO2濃度)をコントロールすることはできませんが、室内では可能です。
たとえば平均的な外気のCO2濃度400ppmに対して、ハウス内のCO2濃度を500ppmとか600ppmに上げてやると、それだけで光合成は2倍近くになり、収量アップに結びつきます。
また、光合成には気孔の開閉も重要で、そのためには適切な湿度コントロールも必要となります。おもしろいことにトマトは適切にストレスを与えることで味が濃くなったり、糖度が高くなります。
つまりCO2濃度や気孔の開閉による蒸散をコントロールすることによって、収量と味を調節できるわけです。発電所から大量に排出されるCO2を活用し、通常の数倍にまでCO2濃度を高めたハウスでトマト栽培している企業もあります。
現在、私たちはいくつかの試験場で実証実験を行いながら、植物を育てるための指標となるデータの収集を進めています。
プロジェクトの最終年度である2022年度末までに、生産現場で光合成速度・蒸散速度をリアルタイムに計測するシステムの実用化を目指しています。システムを使いこなすことができれば、現在1平方メートルあたり25キログラムのトマトの収量を50キログラムに増やすことも夢ではありません。
これらのシステムは「光合成計測チャンバー(光合成蒸散リアルタイム計測)」と呼んでいます。
農家さんが複雑なデータを読み解いて活用するのは難しいと思いますので、リモート技術によるコンサルタントやアプリ開発を考えています。もちろん農家さんの規模に合わせて対応したシステムを提供できるようにもしたいです。
今回の相談は、トマト栽培に光合成を活用して差別化をはかるために、どんな日射計が必要かどうかが趣旨でした。
ですが、ひと口に「差別化」と言っても、収量アップが目的なのか?糖度を上げて味をよくしたいのか?目的によって必要な技術は異なります。
後者の場合は、CO2濃度=光合成ではなく、蒸散(飽差)コントロールが必要になります。
まずは農家さんが、何をしたいのか?どの技術を必要なのか?を見極めることで、最適な技術を示すことができます。