北関東在住の50代です。
当農園ではこれまでいくつかの作物をハウスと露地でつくってきましたが、今後は比較的収入が安定しているいちごのハウス栽培に特化しようと計画しています。
ハウスは、奥行き約50mのものが6棟あり、すべて独立しています。
いちご栽培についてインターネットで調べていると、健康志向の高まりを受けてか、いちごも「減農薬」の言葉を添えることで付加価値が高まり、単価が上がるという話を目にしました。
減農薬にチャレンジしようと知り合いにアドバイスを求めると、農薬を減らす方法として、いちごに付く害虫の天敵(ダニを食べるダニ、アブラムシに寄生するハチなど)を意図的にハウス内に放つことで防除する「天敵栽培」と呼ばれる手法があると教えてくれました。
天敵栽培は農薬とは違い、速効性がない、使用できる薬剤が限定されるといったデメリットはあるようですが、ぜひ試してみたいです。
導入方法やコストなどを、詳しく教えてください。
(群馬県・黒岩さん/仮名・50代)
櫻井杏子
株式会社INGEN 代表取締役
天敵農薬防除暦を作成し、いざという時は化学農薬を使うことも考えましょう
「天敵栽培」はその名の通り、特定の害虫の天敵を農薬代わりに圃場(ほじょう)へ導入する栽培方法のことで、その際に放つ「害虫に敵対する虫」(または菌や微生物)のことを「天敵農薬」(生物農薬とも)と呼びます。
いちご栽培でダニを駆除するために「天敵栽培」を始める際のコツは、
1、圃場内に放つ天敵の個体数や放つ時期などを記した「天敵農薬防除暦」をつくっておくこと
2、作成した「天敵農薬防除暦」の中に「ダニが増えすぎたときは思い切って化学農薬に切り替える」という予定を組み込んでおくことの2点です。
また、いちご栽培で「天敵農薬」を使う際の最大のメリットは「薬剤の耐性とのいたちごっこから離れられる」ことにあります。というのも、発生したダニを短期間でも放置してしまうと、最初はわずかな個体数であってもすぐに爆発的に増えてしまうので、見つけたらすぐに薬散(薬剤を散布)して駆除しなければなりません。
しかし、その際に逃げ延びたダニの薬剤に対する耐性が高まり、より強い薬剤を使わなければ駆除できなくなる……という負のループに陥ってしまうのです。
また、もともといちごは、農薬だけでなくカルシウムなどの葉面への散布回数も多いことから、薬散にかける労力も大きいもの。その点、「天敵栽培」なら害虫駆除のための薬散の回数を減らすことができるので、そこにかかる労力を減らせます。
その一方で、相談者さんが言うようにデメリットもあります。「天敵」も害虫と同じ虫なので、放飼中に使用できる農薬の種類が絞られてしまい、殺虫剤散布に遅れが出て、それが収穫量の減少につながる可能性があるのです。そうならないよう、あらかじめ使用できる農薬を調べて備えておくことが重要です。
なお「天敵」の種類を選ぶときは、「自分の圃場ではどの害虫の被害が一番大きいか?」を判断基準にしましょう。例えば、いちごの天敵と言えばハダニ用のものが有名ですが、ハダニよりもスリップス(アザミウマ)による被害の方が大きい圃場なら、その駆除を優先するべきで、あえてハダニ用の天敵にこだわる必要はありません。
また、最初から化学農薬だけ、生物農薬だけと使用を限定するよりも、まずは導入しやすい時期を見極めて、徐々に天敵農薬を防除暦に組み込んでいくほうが導入しやすいでしょう。
原 聡志
原農園 代表
天敵栽培の導入コストは1万円ほど。試してみる価値はあります
私たちは、岐阜県恵那市岩村町にある20アールの農園で「章姫(あきひめ)」や「紅ほっぺ」といった品種のいちごを栽培しています。5年ほど前からは、いちごの害虫の代表格であるアブラムシを駆除するため、天敵のアブラバチをハウス内に放つ「天敵栽培」を行っています。
当農園が「天敵栽培」を始めた理由は、春先にいちご狩りを行うために観光農園としてハウスを開放した際、訪れていただいた人たちに安心していちごを口にしていただきたいことがひとつ。加えて、アブラムシが発生するといちごの葉に黒いブツブツが大量に付いて見た目が悪くなりますので、それをなくしたいと考えたからです。
ここまで5年間にわたってアブラバチを使用してきて感じたデメリットは、気温が上がり始める春先からアザミウマが発生しても、化学農薬を使用するとアブラバチに影響してしまうため、使用できないことです。最近では、アザミウマの駆除に有効な「天敵農薬」も開発されているようですが、まだ高価なので、当園では導入を見送っています。
アブラバチによるアブラムシ駆除の仕組みは、アブラバチの成体をハウス内に放ち、アブラムシの体に卵を産ませる(寄生させる)というものです。すると、アブラムシの体内でアブラバチの卵がかえって、約3週間後には蛹(マミー)へと変態を遂げたアブラバチが、アブラムシを死滅させます。
ただし、その間にもほかの場所でアブラムシは発生し続けますので、最初に導入したアブラバチが成長して別のアブラムシに卵を産み付け、第二世代、第三世代とアブラムシに寄生するという循環をつくっていきます。
導入のコツは、あらかじめ麦をハウス内で栽培しておき、麦だけにつくアブラムシをアブラバチの餌として用意することで、アブラバチが繁殖しやすい環境をつくることです。
導入コストはどちらも1万円ほどで、それほど高価ではありませんが、農薬を散布するよりも手間や労力はかかりますので、メリットとデメリットを考慮したうえで、体力・余力のある方は試してみてはいかがでしょうか。