私は群馬出身で、首都圏にある農業系の大学を卒業した後にUターンし、地元で就農して10年になります。
実家がやっていたいちご農家を何気なく継いだのですが、最近になって自分でいちごを育てることの楽しさがわかってきました。
そんな中、学生時代の先輩がいちごの新品種を作って売り出していることを知り、私も新品種を作ってみたいと思い始めました。
しかし、新品種を作るまでの具体的な流れがよくわかりません。
先輩に聞いてみたのですが、あまり詳しくは教えてもらえませんでした。
そこで、個人でいちごの新品種を作る手順と、開発した新品種を登録する方法を教えていただけないでしょうか。
(群馬県・金井さん/仮名・30代)
川西 豊
いちご農家
理想の味を求めて試行錯誤。完成までに5年かかり、そこから申請します
私は7〜8年前から家庭菜園でいちごの栽培をしていたのですが、今年(2021年)ようやく、念願だった白いいちごの新品種である「ホワイトラブ」を登録することに成功しました。今では東京の某有名ホテルのレストランやテーマパークのレストランのデザートに採用され、来年には地元・高松空港でお土産としても採用される見込みです。
私が新品種を作ろうと思い立ったのは、2016年のこと。お子さんやお年寄りから「酸味が強いので苦手」とか「練乳をかけないと食べられない」といった意見をもらい「本当のいちごの美味しさをわかってもらうのが自分の役割だ」と思ったのがきっかけです。
最初は、ホームセンターに行っていちごの苗を買い、自分でハウスを建てるところからスタートしました。そして「桃薫(とうくん)」という品種に出会ったとき「これだ!これ以上のいちごを作らなければ!」と思い、そこから試行錯誤が始まったのです。
「ホワイトラブ」の原型ができたのは、白いいちごと「桃薫」の交配を続けて2年あまりが経った頃のこと。そこからさらに栽培方法を研究していきました。いちごの本来の旬は1月〜4月ですが、年間で一番売れるのはクリスマスシーズン。そのため農家は、ハウス内をボイラーで高めて加温し、収穫時期を早めます。
けれど、私は光熱費として月に何百万円もの経費をかけることはせず、無加温でじっくり育てることを選びました。さらには糖度を高めるために、ビール酵母や乳酸菌を与える、保水の仕方を工夫するといった、一般的ないちご農家がやらないことを試し続けました。これに3年かかったため、新品種ができるまでには延べ5年の年月がかかっています。
新品種の登録には、農林水産省の品種改良担当部門に、試作時のデータや種子の実物と出願料約5万円を添えて、品種登録願いの書類を一式提出します。これらの申請にかかる労力も結構なものですが、大変なのはやはり新品種を開発するまでの工程だと思います。
農業を面白くするためには、普通のことをやっていてはダメです。ちょっとした発想が大事ですし、自分の努力次第でいくらでも農業は変わりますから、相談者さんも頑張ってくださいね!
岩崎真也
農学博士、国立研究開発法人研究員
登録するには細かな要件を満たしたうえで、数年かかります
新品種の要件を満たすいちごが生産されたら、農林水産省に「品種登録出願書」を提出することで登録作業がスタートします。
一般的にいちごを品種として登録するためには、
1、区別性:既存の品種と重要な形質(大きさや色、形など)で明確に区別できること
2、均一性:同一の世代で形質が似ていること(同時に栽培した種苗からすべて同じものができるのか)
3、安定性:増殖後も形質が安定していること(何世代増殖を繰り返しても同じ形質のものができるか)
4、未譲渡性:品種登録の出願日の1年より前に、出願した品種の種苗や収穫物を譲渡していないこと。外国での譲渡は、日本での出願日から4年(林木、観賞樹、果樹などの木本性植物は6年)より前に譲渡していないこと
5、名称の適切性:品種の名称が既存の品種名称や登録商標と紛らわしいものでないこと。品種について、誤認や混同を招く恐れのないものであること
の5つのポイントを満たすことが求められます。
出願してから登録されるまでには2年~3年かかるので、時間と労力が必要になります。