徳島県北部でいちごを生産しています。
地元では、春先になると国道沿いに朝採れいちごを売る直売所が並んで、「ストロベリーロード」なんて言われています。
うちではやっていませんが、まわりの農家さんでは観光農園を併設しているところも多く、うちでもコロナ禍が終息したらやってみようかと、今からいろいろと考えています。
いちご狩りといったら、もぎたてがその場で食べられるのが魅力ですから、そのためにハウス内の設備を整えたり、栽培体制や宣伝方法などを考えています。
そうしたなか、最近、化学肥料を使わず、免疫力が上がるとかで、乳酸菌を使っていちごを育てる農家が増えていることを知りました。
既存の乳酸菌資材というものも販売していますが、ヨーグルトでお馴染みの乳酸菌を使うことで、どんなメリットがあるのでしょうか?
化学肥料を使わずに済むのであれば、観光農園をやるときに売りになるのではないかと期待しています。
(徳島県・佐々木くるみさん/仮名・30代)
山川 理
山川アグリコンサルツ代表、農学博士
いちごにはもともと「乳酸菌」が生息しています。わざわざ乳酸菌を散布する必要はありません
いちごには元々乳酸菌が生育しています。私は2021年秋に、イチゴから乳酸菌を分離して同定することに成功し、特許をとりました。現在は地元の埼玉工業大学に依頼して、菌の種類や特性に関する分析を進めています。
いちごに限らず、植物性乳酸菌は一般的に薬品に弱いので、化学農薬を散布すると死んでしまいます。
ですから、もしご相談者さんが無農薬栽培の場合、わざわざ乳酸菌を散布する必要はないと思います。
私が埼玉県で耕している畑は無農薬ですから、植物性乳酸菌もたくさん存在します。この乳酸菌を使って、25度の温度を維持すると、約3時間で美味しい豆乳ヨーグルトができます。
乳酸菌には「ホモ型」と「ヘテロ型」というふたつの発酵方法がありますが、イチゴのようなヘテロ型の植物性乳酸菌は、乳酸以外にも酢酸や二酸化炭素、アルコールなどの副産物を生成します。
ヨーグルトなどの動物性乳酸菌に比べて、低温にも強く、冷凍保存ができるので、取扱いが楽だという特徴があります。また、玄米の米ぬかなどを使って自作する農家さんもいます。
日本有機株式会社
日本有機株式会社
土壌環境を高める効果がありますが、使い方には注意が必要
乳酸菌というと、一般の消費者の方は、ヨーグルトやチーズ、漬物などの発酵食品を思い浮かべますが、農業でも活用されています。
市販されている農業用乳酸菌資材は、乳酸菌の種類や菌数、他の微生物の共存の有無、培養方法等、いろいろな製品がありますので、効果については一概に言えませんが、一般的なメリットについてお話しします。
メリットは、乳酸菌の性質から2点に分けられます。
1)病害予防〜乳酸菌が乳酸を生産することで、一時的に土壌のpHが下がって酸性に傾くことで、病害菌の生育を抑制する効果が期待できます。乳酸を餌とする微生物の働きが活発になるため、有害な菌が少なくなり、ミネラル成分が増えて、良質な作物を収穫できるようになります。
2)肥料効果を高める〜乳酸菌はアンモニア態窒素をよく取り込みます。窒素はリン、カリウムと並んで、植物の生育に欠かせない3大肥料のひとつですが、窒素が多すぎると、茎や葉がひょろひょろと育ちすぎるなど生育障害の原因にもなります。そこで、乳酸菌に余分なアンモニア態窒素を取り込ませることで、作物の一時的な過剰生育を抑制し、適度に養分供給させることができます。
乳酸菌が取り込んだ窒素成分を時間をかけて分解することで、土壌に栄養成分がゆっくり溶け出します。この結果、栽培期間中の肥料枯れや肥料の過剰施用による障害が減って、良好な生育環境を作ることになります
特に大きなデメリットはありませんが、乳酸菌も含めて微生物を使った栽培は、微生物の特徴を理解した使い方をしないと、化学肥料に比べて効果がはっきりわからない場合があります。
乳酸菌は酸素を必要とせず発酵するタイプの嫌気性菌ですが、人間の腸内環境と同じように、少しずつ減少するので、定期的に投入する必要があリます。そのため、土壌の環境や共存する微生物との相性で、土壌中の活動が左右されます。そこで、市販されている乳酸菌入りの微生物資材を選ぶときは、単純に菌の数だけではなく、乳酸菌の生存率を高める工夫がなされているかどうかなど、土壌内での働きを発揮できるかどうか考慮して選んでください。