千葉の里山で農薬・化学肥料をできるだけ使用せずに露地野菜を育てています。
コロナ禍のタイミングもあり、病気で仕事が思うようにできなくなった父の後継ぎとして、農業を始めたばかりです。
せっかく農業に挑戦するので、父のやってきたことを継承するだけではなく、自分なりに挑戦をしていこうと考えています。
先日「ほうれん草を寒い期間にじっくり育てると、果物に負けないくらい甘くなる(肉厚で糖度15前後にもなるそう)」と聞き、挑戦しようと思っています。
しかし、父にそのことを相談すると「ほうれん草は霜でやられたら全滅するぞ」と言って反対されました。11月以降には畑を休ませるべきだというのが反対の理由のようです。
まずは挑戦してみるべきだと思うので、冬場にほうれん草を栽培するための、品種選びや栽培のコツを教えていただけないでしょうか。
(千葉県・窪田さん/仮名・30代)
鈴木雅智
ブロ雅農園
ほうれん草を甘くするには「寒さに当てつつも、霜でやられないギリギリの環境」で栽培しないといけません
こんにちは。神奈川県三浦半島で100品種ほどの多品目栽培をしているブロ雅農園の鈴木です。
農家になる前は農業高校の教員をしていました。ほうれん草専門の農家ではありませんが、農業高校やわが家のやり方が少しでも参考になれば幸いです。
新規就農ということで新しい環境に戸惑うことも多いかもしれませんが、ハマれば楽しい仕事ですから、ぜひいろいろ挑戦してほしいと思います。
どこの親も経験則から、同じ失敗をしてほしくないと思っているでしょう。そんなことから反対されることは多いと思います。実際に私が親元就農した時も何から何まで反対されました(笑)。
しかし、数十年前とは温度や資材、品種等も変わってきていますから、実際にやらないとわからないことも多いです。農作物は工業製品ではないので、1年に作れるのは1回のみの場合も多いです。
そんなわけで、やりたい作物がある場合は、思い立ったらすぐやることをお勧めします。失敗してもいいと私は思っています。
それが必ず経験値アップにつながりますからぜひチャレンジしてみてください。ただし、いきなり大量に作るのではなく必ず少量の試験区を1年以上やってみましょう。
>寒い期間にじっくり育てると、果物に負けないような甘いほうれん草(うまく作れば肉厚で糖度15前後にもなるそう)を作ることができると聞いた。
はい、それは可能だと思います。ほうれん草の糖度は3~5ともいわれていますが、条件や作り方によっては糖度18以上にもなるといわれています。
甘くなる仕組みは、光合成によって糖分がつくられますが、特に甘いほうれん草を作る場合は、低温にさらさないといけません。その時の枯死することをふせぐ働きが糖度をあげる仕組みです。
つまりは、甘くするには「寒さに当てつつも、霜でやられないギリギリの環境」で栽培しないといけないということです。その絶妙な温度を保つことが最大のテクニックであり、一番難しいポイントでしょう。
外部の温度は一定ではなく、日々変化します。
昔テレビで、金属製のフレームに電極棒を上下にあたらないようにゴールまでもっていくゲームがありましたが、まさにそんな状態で最高の甘さを出すためには、その間を縫うような絶妙なテクニックが必要です。
コースは、比較的まっすぐに安定している場合もあれば、上下が激しく難しい場合もあります。
これは、環境にも言えることで、甘いほうれん草を栽培するには「寒締めほうれん草」というものがあるように、比較的寒い地域の方が作りやすいと私は思っています。
私の住む、三浦半島では暖かすぎるし、千葉も地域によっては非常に暖かいですから、そういう意味では「甘いほうれん草」をつくることは比較的難しいコースのような気がします。
>冬場の甘いほうれん草作りのための品種選び、栽培のコツを教えてほしい。
1、 環境
先ほどのコースの例えがありましたが、安定したコース(環境)を手に入れるためには、ハウス栽培か、トンネル栽培は必須でしょう。
露地でもできないわけではないですが、それこそ絶妙な塩梅が必要になり、それこそお父様がいう「ほうれん草は霜でやられたら全滅するぞ」になってしまう可能性もあります。
やはり、コストはかかりますが、ハウスは一番管理もしやすいですね。
ただし、何度も言うようですが、難易度の高い露地もチャレンジしたいという気持ちがあるならやった方がいいですね。その場合は、最低でも、寒冷紗や不織布をかけたりして温度調節をしてみてください。
2、施肥設計
味に影響が出るのは、施肥設計です。まずは、地域の農協などで土壌分析をするのは大切です。
土の状態は達人でも目で見てわかるものではありません。数値で見るというのは非常に大切です。何が過剰で何が足りないか、しっかりと把握しておきたいところですね。
農家さんによって、さまざまな方法があるので正解は一つではありませんが、化成肥料のみで作るのは「甘味を出す」という観点ではなかなか難しいと思っています。
有機質肥料を中心に使用し「じわじわ」と吸収させるということが大切です。化成肥料はあくまで足りない部分を補うサポート的に使うと栽培がしやすいです。
3、品種
一般的に甘味を求めるほうれん草といえば「ちぢみほうれん草」や「寒締めほうれん草」などと呼ばれるタイプですね。
最近注目されている新品種はサカタのタネの「寒締め吾郎丸」です。昔ながらの葉の形と収量性・作業性を兼ね備えたおいしい秋冬まき用品種です。
基本的には、西洋系品種より東洋系品種(葉に切れ込みがあり、種にとげがある)のがおすすめです。
ただ、一方で、高糖度ほうれん草栽培に取り組んでいる人は「品種は関係ない」という方も多くいると聞きます。栽培方法も確立されていないと言われているので、各農家まだ探りながら栽培しているのが現状のようです。