千葉県でスイカやニンジンなどを中心に、年間60〜70品目の野菜作りを40年やってきました。
ありがたいことに現在は息子も手伝ってくれて、私も現役で頑張っています。
しかし、年齢のせいなのか、異常な暑さのせいなのか、最近疲れやすくなってきました。
とくに、ほうれん草を育苗したセルトレイから畑に移植する際、根を痛めやすいので注意深く作業する必要があり、身体的にキツくなってきています。
すると息子がほうれん草をセルごと植える方法があるという話をネットで見つけてきました。
セルトレイごと直置きし、さらにセルトレイごと抜き取る束どりも可能だということです。
たしかに効率はいいし、作業の負担も軽減され、おまけに収穫もラクな印象です。
しかし、セルごと植えることで何か問題はないのでしょうか。
(千葉県・松本さん/仮名・60代)
鈴木雅智
ブロ雅農園
ほうれん草をセルごと植えることはできますが、思ったほど省力化になりません
こんにちは。神奈川県三浦半島で多品目栽培をしているブロ雅農園の鈴木です。
「セルトレイごと」というのは面白い方法ですよね。
私個人の考えでは、「できるけれど、思っているほど省力化にならないのでは」と思います。
実は私も似たようなことを発想して、セルトレイやポットで試験的に植えたことがありました。
その結果、「可能だが、普通に定植した方が早く、管理もしやすい」と思いました。
特に困ったのが、片づけの時にセルトレイが風で飛ばされたり、土の中で行方不明になったり、ぼろぼろに劣化したり、根が穴に絡みついて取りにくくなったりと散々な結果でした。
ただ、これはあくまで私の場合です。そこで、相談者さんも最初からいきなり圃場全体ではなく、一部で挑戦することをオススメします。
農業は工夫の連続ですから、やってみようとしたことが致命的なミスにさえつながらなければ、挑戦してみることも経験のひとつだと私は考えています。
野菜の種類によっては、うまくいくかもしれませんし、地域によっても成果は全然違うかもしれません。
すべてではなく、圃場の一部分、または一列を息子さんの言うとおりにやってみても新しい発見があるかもしれません。
私はセルトレイを小分けにするという作業がすごく大変だと感じていますが、実際にやらないとわからないですから、経験値を稼ぐ意味でもやる意味はあると思います。
相談内容に「疲れやすくなっている」とあることから、"作業の省力化”をテーマにするなら、定植方法を工夫したり、防草シートを多用するというのが、私が実感したわかりやすい省力化でした。
例えばセルトレイの手植えの場合なら、「みのる産業」という農業機械メーカーが、ハンドプランター「なかよしくん」という定植を補助する器具を開発していますが、これを使うと腰を屈めず立ったまま移植できるので、圧倒的に時間が短縮されます。
欠損株を気にするくらいなら、定植本数を増やした方がいいと私は考えているので、そのあたりは、好みで対応されるとよいかなと思います。
また、除草に時間がかかるなら防草シートを多用して省力化できました。
どんな方法でも省力化をする場合、初期投資は少しは必要だと思います。疲れるけれどお金をかけないか、お金をかけて少し楽をするか、悩ましいところですね。