茨城県でハウスと露地栽培で年間30種類ほどの野菜を育てています。とくにナスの栽培には力を入れており、夏から初秋にかけての露地栽培、さらにハウスでは秋から初夏までの長期間、促成なすを作っています。
悩みはハウス栽培での害虫被害です。とくに春になって気温が上がってくる頃のハダニやコナジラミの発生に悩まされています。
夏場にはハウスの高温密閉処理をするなど対策していますが、ハダニ類は高温に強いので、思った以上に大きな効果が出ません。
ハウスでは受粉用にクロマルハナバチを使っているので、積極的に農薬を使うわけにもいきません。
農薬を使わないでハダニやコナジラミの発生を抑制したり、退治する方法はないのでしょうか。
(茨城県・三田さん/仮名・40代)
小島英幹
株式会社セイコーステラ エコロジア事業部/日本大学生物資源科学部 研究員
スワルスキーカブリダニの導入、光を活用したLED捕虫器などが効果的
1960年代に出版されたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、農薬が生態系や人体に及ぼす危険性を世界に認知させた書籍として有名です。
現代においても、化学物質である農薬は自然生態系や人間の健康に悪影響を及ぼすため、殺虫剤をなるべく使用しない農業管理を行う農家が増えてきました。
IPM(総合的害虫管理)は、複数の手段を総合的に組み合わせる害虫管理モデルで、主に化学的防除・耕種的防除・物理的防除・生物的防除の4つの防除方法を取り入れて、害虫の個体数や密度を減らすことを目的にしています。
IPMの生物的防除や物理的防除の実践によって天敵生物や害虫の習性を利用した農業資材が徐々に普及しています。
ハウス栽培では、暖かくなってくる春先になるとハダニ、コナジラミ、アザミウマが増えてきます。
ハダニに対しては天敵生物であるカブリダニ類のダニを利用することで、経営的な被害を生じないレベルにまで個体密度を抑制することができます
農業における天敵生物として有効なカブリダニ類は、チリカブリダニ、ミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニなど複数確認されています。
ひと昔前まではチリカブリダニやミヤコカブリダニを導入する農家が多かったですが、近年はスワルスキーカブリダニを導入する農家が増えてきました。
その理由は、スワルスキーカブリダニはハダニだけではなく、コナジラミとアザミウマも捕食するからです。
スワルスキーカブリダニを導入するコストは、他のカブリダニ類よりも高額になりますが、「広い食性(広食性)」「農薬散布の手間を減らせる」などの理由から、導入する農家が増えています。
コナジラミとアザミウマは昼行性の飛翔害虫で、太陽の光を背中に受けて姿勢を維持する習性を備えています。
これらの害虫には、「光」を利用することで行動抑制が可能になります。
光を利用した農業資材には、シルバーテープや光反射シートなどが知られており、太陽光を反射させる目的があります。
太陽光は上空から地面に向かって、一方向にしか照射されませんが、光反射資材を利用すると、影になりがちな農作物の葉の裏や株元などにも太陽光を当てることができます。
反射効果による太陽光を照射されたコナジラミやアザミウマは太陽の位置がわからなくなって方向感覚が乱れるため、吸汁や交尾・産卵などの行動が抑制された結果、農産物の被害が少なくなるとされています。
弊社ではコナジラミ、アザミウマを捕虫することができる吸引式のLED捕虫器「スマートキャッチャー」を販売しております。
スマートキャッチャーは、緑色のLED光と、紫外線LED光を照射することができ、一部のコナジラミ類やアザミウマ類が誘引されます。誘引されたこれらの害虫をファンで吸引して捕獲することができ、防除や予察に利用することができます。
また、赤色防虫ネットをビニールハウスに設置しているのをよく見かけますが、日中のハウス内に赤色LED光を照射するとアザミウマの行動が抑制されて農作物の被害が軽減します。
弊社が販売している「モスバリアジュニアⅡレッド」は、赤色LED光を照射することができるというハウス向けの機械で、700m2の広さに1台を目安に設置して、ハウス内の広範囲を照射すると、アザミウマ類の吸汁や産卵などの行動を抑制することができます。
齊藤雄紀
株式会社ビーコンシェルジュ
殺ダニ剤の散布は避け、できる限り生物農薬で対処してください
最初に申し上げますが、私はダニの専門家ではありません。
専門外の回答だと割り切ったうえで受け止めていただけると幸いです。
ご相談者さまがおっしゃっているように、殺ダニ剤の散布については避けるのが賢明です。
まずハダニの発生を抑制する方法ですが、水に弱いというハダニの特徴を利用するといいでしょう。
葉っぱの裏など、ハダニがいそうな場所に多量の水を継続してかけることで減らすことができるかもしれません。あとは生物農薬を利用します。
ハダニ用の生物農薬としては、アリスタ ライフサイエンス社から「スパイカルEX」「スパイカルプラス」、アグリセクト社から「ミヤコトップ」といった商品名でハダニを捕食するミヤコカブリダニを養殖したものが販売されています。
ダニと聞くと悪いイメージしかないかもしれませんが、このミヤコカブリダニは悪さをしないダニなのでご安心ください。
薬と比べると高いですし、生物農薬に合わせてハウス内環境を調節しないと効果が全然出なかったりするので難しい部分もあるのですが、使いこなせればかなり効果があります。
ミヤコカブリダニがハウス内にちゃんといるかどうか気になる場合は、総合的病害虫防除を展開している「アリスタ」のサイトで詳しい方法が紹介されていますので、ご覧になってください。
つぎにコナジラミについてですが、やはり安易に薬剤は使えません。
コナジラミ用の黄色い粘着版を使う手もありますが、飛行中のマルハナバチが間違ってくっついてしまうリスクがあります。
そうなるとやはり生物農薬となります。ひとつめは「オンシツツヤコバチ」とか「サバクツヤコバチ」というコナジラミに寄生する蜂を使うものです。
前述のアリスタ ライフサイエンス社から「エンストリップ」「エルガード」などの商品名で販売されています。
寄生蜂が活動しやすい温度や湿度、日当たりなどを調整する必要があるので、メーカーのWebサイトや説明書をよく読んだうえで、実際に使いこなしている農家の報告なども調べて活用してください。
ふたつめは、コナジラミに感染する病原菌を散布する方法です。同アリスタ ライフサイエンス社の「マイコタール」、三井物産が扱っている「プリファード水和剤」といった商品名で販売されています。
水和剤と聞くと化学薬剤っぽく聞こえますが、簡単にいうと、カビの仲間の菌が入っているだけです。
カビの仲間を撒くことでハウス内がカビだらけになりそうな印象を受けますが、この手の菌は生物の体内にしかない特別な成分を標的とするものなので、ハウス内がカビだらけになる心配はありません。
また、上記の寄生蜂との併用も問題ありません。