学生時代に福祉関係の手伝いで農業体験プログラムをサポートしたことで、米作りに興味を持ちました。
現在は、県の農業公社の斡旋で家付きの田んぼ1町歩(約1ヘクタール)ほどを格安で借りることができ、お米を本格的に作り始めて5年ほどになります。
今まで代かきはトロリとなるまで、何回か丁寧にやっていました。
できるだけ水をたっぷり入れ、念入りに撹拌するので手間がかかりますが、そうやって手間をかけるのが代かきだと信じていました。
しかし地元の勉強会でベテラン米農家さんにその話をすると、「代かきは荒っぽい方が稲が元気に育つ。稲の活着が早くなる。余計な藁(わら)も浮いてこないから作業も楽になるんだよ」と教えられました。
たしかにいつも苗の活着が不安定で倒れやすかったり、ひどいときには苗が浮いて吹き流されることが起きたりするのが悩みだったので、納得する部分もあります。
しかし、やはりいまだに半信半疑です。本当に丁寧な代かきをしなくても元気な稲が育つのでしょうか?
(岩手県・三田さん/仮名・20代)
高橋賢一
株式会社 ふるさと未来 代表
代かきの目的を考えましょう。「さっくり代かき」でも稲は元気に育ちます
私は2013年から「さっくり代かき」を実践しています。
これは、代かきの3日前に水を入れて田んぼを湿らせておき、前日に水を足して水分をもう一度しみ込ませ、代かき当日は土を崩す程度に1周回り、次の1周で表面をならしておしまい、というものです。圃場の土質によっては、1周で終わりにします。
この方法に行き着いた理由は、「昔はこんな土じゃなかったよなー」という素朴な疑問から……。そして「土の酸素が足りないと根っこが伸びない」と若いころに習ったことを思い出し、「さっくり代かき」の実験を始めました。
その結果、何度も代かきをしていたときと遜色がない稲に育つではないですか!それ以来、ずっと「さっくり代かき」を実践しています。
代かきの目的を考えてください。代かきは田植えができる圃場を作るためですよね。
田植えができる圃場というのは、泥の下に酸素があることです。
空気がないと根が水を吸えません。何回も代かきをしてトロトロにしてしまうと、生育に重要な酸素が奪われてしまって逆効果となります。
実際に「さっくり代かき」に取り組んでからは、それまで10日から2週間かかっていた苗の活着が、約半分の期間に短縮されました。
トロトロの土のせいで、下部に潜ってしまっていた除草剤の効果も改善できました。もちろん労力も燃料も削減できました。
後作業の溝切りも、荒くしているので水切れが早いですし、泥が浮き上がってくる表層剥離を避けることができて、メタンガスの発生も抑えられて、良いことだらけです。
現代の機械であれば、何度も代かきをする必要はありません。私は同じところを3~4回代かきしないように機械にGPSをつけています。
高性能なものではありませんが、代かきの重複を避けることができるので役立っています。
佐々木茂安
日本のお米をおいしくしたい。佐々木農業研究会代表/農業経営技術コンサルタント
酸素のことを考えると代かきは丁寧にしない方が良いです。入水は数日前に
結論から言えば、代かきの数日前に入水すると良いです。
稲は光合成で水を分解して酸素をつくって根の方に送るため、水中でも根を張ることができます。苗の段階では葉の面積が少ないので、根に十分な酸素を送ることができません。
だからこそ土壌中に酸素を確保することが求められます。
代かきを丁寧にすると土壌中の酸素が追い出され、さらに有機物の分解によって酸素をとられると、酸化した鉄まで還元鉄になってしまうほど酸素が失われます。従って、酸素のことを考えると代かきは丁寧にしない方が良いです。
また、除草対策の水持ちは土が緻密な方が良いといわれますが、実はこれは誤解で、灌水前の乾燥した乾土と同じくらいの水分含有量が最も水持ちが良くなります。
生産者の都合で、入水後すぐに代かきをすると土塊中に十分水が入らないので、この吸水量を想定して多めに水を入れることがあります。
結果として適正な状況ではなくなってしまいます。
この対策として、代かきの数日前から入水し、土塊中心まで入水させることが大事となってきます。この方法ですと、圃場の土が7割見える状態でも十分代かきができ、「藁(わら)」が浮かないので田植えの作業が楽になります。
最後に補足としていくつかのポイントをお知らせします。
農機具は、本体の重量が軽い方が、土が締まらないので、作土層の下にある強還元層が少なくなる効果が期待されます。(還元層は酸素不足の状態なので、土壌還元が強くなると、水筒の根が障害を受ける恐れがある。)
一方で、土を天地返しするプラウ耕で有機物を下層にすき込み、大きなトラクターで作業をすると還元害が出やすくなりますのでご留意ください。
また、還元害は土壌のpHが高いと出やすいので、「藁」の腐熟方法もご配慮ください。