脱サラしてイカの1本釣りを主体に、現在は師匠の船に乗りながら漁師をやっています。
海がよほどしけていない限り、当然雨の日でも作業は行うのですが、以前は漁協からもらったビニール製のカッパを使っていました。
雨を完全シャットアウトしてくれるので、雨の日の作業では常に着ていたのですが、風がない日には暑くて汗をかくし、ズボンのウエスト部分と上着の手首部分のゴムがきつく、フードもちょっと窮屈に感じます。
雨を通さないのは当たり前ですが、動きまわっても蒸れずに快適に作業ができ、コスパもよいおすすめのものがあれば教えてください。
できれば、腰回りのゴムに伸縮性があり、袖口部分をマジックテープで調整でき、さらにフードも着脱できるタイプが希望です。
(山口県・加藤さん/仮名・30代)
古橋 徹
川島商事株式会社
完全防水か、透湿防水か?重要視する機能と作業内容に合わせて選びましょう
現在主流のカッパは大きく分けて「完全防水タイプ」と「透湿防水タイプ」の2種類があります。
前者はいわゆる漁師カッパとよばれ、ビニール系の素材を使用していて、穴が空いていないかぎりは水を通すことはありません。おそらく質問者の方が以前に着用されていたのはこのタイプかと思われます。
後者は「ゴアテックス」に代表されるような防水耐久性・透湿性・防風性をかね備えた機能性素材を使用したタイプです。
こちらはおもに釣具メーカーやアウトドアブランドが展開する商品で、各社とも特徴があり、雨などの水は通さずに汗や湿気を放出する仕組みとなっています。
質問者さんは雨を通さずに蒸れないことが希望ということですので、こちらのタイプをおすすめします。
これら2タイプのカッパですが、漁業で使用する際にはどちらのカッパにもメリットとデメリットがあります。
ビニール系の漁師カッパは前述のとおり完全防水の素材を使っているため、中の汗や湿気を逃がすことができず、夏季の着用は不快に思われるかもしれません。
これは作業中に波をかぶったり、船や網などの清掃の際に高水圧の水がかかったりすることを想定し、防水性に特化して機能性の強化を図っているためです。
一方、透湿防水の素材のほうは蒸れずに雨をしのげる快適な素材ですが、作業中に想定以上の水圧がかかるような状況では、防水性が不十分に感じる方もいるのではないでしょうか。
それは、透湿防水素材は繊維の密度を高めることで水を通しづらくしているためと考えればわかりやすいと思います。
以上のように、質問者さんが希望されるような双方のメリットを完璧にかね備えたカッパは残念ながらありません。
とはいえ、仕事で繊維素材を扱う者としての意見ですが、どちらのカッパも現在の技術レベルでは最善の方法で生産されています。
双方の特徴を理解した上で、ご自身が最も重要視する機能の点を考慮しながら、作業に合わせて選ばれるのがよいのではないでしょうか。
本間俊輔
株式会社水土舎主任研究員
耐水・耐久性抜群やプロ仕様など、複数のカッパを使い分けるのが理想的
漁業者にとってカッパは、雨だけなく、波しぶきや魚の汁などから体を守る重要なツール(道具)の一つです。
おっしゃるとおり、漁業者の多くは海が時化ない限り毎日海に出るのが普通ですから、カッパに掛かる負担は一般の人が着るカッパとは比べものになりません。
そのため、漁業者の多くは「水産カッパ」や「漁師カッパ」と呼ばれる専用のカッパを使用しているケースがほとんどです。
漁業者用のカッパの多くは、耐水性や耐久性を最優先した厚手のビニール製のものがほとんどで、快適性についてはほとんど考慮されていません。
とくに透湿性がまったくないため、夏場の暑い時期や激しい運動をともなう作業の際には、汗をかいてかなり不快な状態になります。
一方で、登山や釣りといったアウトドアスポーツ用に開発されたカッパ(レインウェア)は、防水性だけでなく、快適性も重視して開発されています。
「ゴアテックス」をはじめとする最新の透湿素材が使用されているため、雨の中で着ていても驚くほど快適です。
しかし、こうしたカッパは快適性や動きやすさといった機能面では最高の性能を発揮する反面、デザイン性が重視され、価格を度外視してつくられていることが多いため、値段が高くて耐久性に劣るという欠点もあります。
そこで、個人的に最もおすすめなのが、「ワークマン」をはじめとする作業着メーカーが製造、販売しているカッパです。
こうしたメーカーのカッパはアウトドアスポーツ用のウェアが使っている技術を応用した上で、快適かつ安価にというプロの厳しい要求にも応えていくような商品開発を行っています。
そのため、アウトドア用のカッパと比較してみても、非常にコストパフォーマンスが高い製品を多くみかけます。
それでも、単純な防水性や耐久性については漁業者専用カッパの右に出るものはありません。余裕があれば複数のカッパを用意し、出漁当日に想定される気温や雨の強さ、作業内容によって使い分けることが理想かと思います。
なお、漁業者用のカッパの多くはもともとゆったりとした作りになっていることが多く、お悩みの中にあるウエスト部分や手首のキツさ、フードが窮屈なことについては、単純にカッパのサイズが体に合っていないことが原因と考えられます。
新しいカッパを購入される際には、できるだけ店頭で試着して、ご自分の体に合った形状で、無理のないサイズのものを選ばれるのがよろしいかと思います。