京都府で大根とカブを育てている野菜農家です。漬物屋と契約して、加工用の大根を育てています。
大根の品種は「耐病干し理想」と「耐病総太り」、カブは「聖護院蕪」を栽培しています。
しかし最近になって、切ったら「ス(根身の中に発生する空洞)」が入っているとクレームを受けて、返品処分になるものが増えています。
スが入っていると、漬物にした際の歩留まりが悪くなってしまいます。
しかし、大根やカブは外から見ても、スが入っているかどうか判別しにくいのです。
出荷する前にスの有無がわかれば取引先に迷惑をかけることもないのですが……。
出荷の前にスが判別できる方法だったり、スを無くす栽培技術があれば教えてほしいです。
(京都府・丸尾さん/仮名・40代)
福岡信之
石川県立大学
「ス」があるかどうか判別は難しいですが、要因を探って、発生数を減らす対策を練っては?
大根の「ス入り」と空洞症はいずれも生理的な要因によって起こる障害ですが、その発生原因や発生機構はまったく異なります。
大根のス入りは、生育後半の成熟期に貯蔵根に蓄えられた糖などの可溶性物質が過度に消費されることで起こる生理障害です。
大根の根部は、成熟期には1kgもの大きさに達します。
このとき、肥大した根部では、自らが蓄えた糖などの可溶性物質を分解してエネルギーを作り、さらにこのエネルギーを使って生体を維持しようとします。
通常、肥大根で消費される可溶性物質は、葉からの同化産物の転流によって補われますが、肥大根の成熟が適期を過ぎて進むと、葉の老化の進行によって同化産物の合成量の低下が起こり、葉から肥大根への同化産物の供給不足が生じます。
この結果、肥大根では蓄積した可溶性物質の消費が進み、スが発生することになるわけです。
したがって、収穫時期が適期を過ぎて遅ければ遅いほど、葉の老化の進行度合いが大きく、スができやすくなります。
また、スの発生は、栽培環境によっても大きく変動することで知られています。
例えば、収穫適期の範囲内であっても、生育後期に肥料不足となったり、病害虫や風害によって葉部に大きな損傷を受けたりすると、スの発生がしばしば問題となる場合があります。
これは、葉の同化産物の合成量の低下による葉から肥大根への同化産物の供給不足に原因があると思われます。
また、収穫期が高温になる作型の大根は、収穫期が低温になる作型に比べて肥大根の呼吸量が高く、多くの可溶性物質が呼吸によって消費されやすいので、スが発生しやすいと言えます。
さらに、生育後期に多雨などで畑が冠水するなどの大きなストレスが加わることも、肥大根の呼吸量の増加と葉部の光合成能の低下の原因となり、スの発生の助長要因となります。
このように、スの発生はさまざまな栽培環境によって大きく変化し、耕作者によってもその発生原因は異なります。
したがって、スの発生を抑えるには、個別にその発生原因を特定する必要がありますが、耕作者自ら畑の栽培環境や栽培歴を振り返ることで、その原因を特定できる場合が多く、発生軽減のための対策を立てることが可能です。
今回の大根がどのような栽培条件下で作られ、栽培期間中にどのような問題があったのかが分からない限り、正確な防止対策をお答えすることはできませんが、参考までにこの事象が起きた原因のいくつかの可能性と対応策を列挙しました。
●大根の成熟期の気温が平年より高くて、生育スピードが早い場合は、スが入る可能性が高くなるので、採り遅れないよう、計画的に播種することで対策します。
●白さび病などの病害被害や虫害被害が平年より多かった場合、農薬の散布体系の見直しをする(適期防除に努める)ことで対策します。
●風害などの気象要因によって葉の損傷が大きかった場合、液肥散布や追肥などにより葉の光合成機能の早期回復を図ることで対策します。
●生育後期の多雨により畑が冠水した場合、明渠や暗渠などの排水対策を見直すことで対策します。
最後に、外側からスが入っているかどうかを判別する技術ですが、現在のところ実用可能な検査機器はありません。
スの発生の有無は、葉の付け根から2~3cmほど上の葉柄断面の空隙の状態で判断可能なことは古くから知られています。
葉柄切断面の中央付近に空隙があれば重度なスが発生している場合が多いのですが、この方法では軽度のスの発生の有無の判別までは困難です。
山下敏広
株式会社ニレコ 食品営業
近赤外線を照射して検査する方式がありますが、判別精度については課題があります
弊社では、農産物を外観の色合い、キズ・生傷腐敗(柑橘類)・サイズなどと、糖度や酸度など内部品質の要因をもとに、瞬時に等階級を判別する品質検査装置を販売しております。
大根の内部に空洞があるかどうかを調べるのは、主に「近赤外分光式内部品質センサー」を使って、対象となる農作物の内部の傷害を検査する方式を採用しています。
原理は、大根に近赤外線を照射して、通過した光を検出することで、内部に空洞があるかどうかを検査するというもので、統計分析の手法を用いているため、内部空洞を測定しているのではなく、推定する装置となります。
分析精度は計算上68%の正解率となります。
大根は長さが60cmにもなり、縦方向に光を照射する必要があるため、検査処理能力は大根の長さによります。
処理量を高めるには、検査装置を何台も必要とすることや、検査精度68%を実用面から考えると現実的ではないのかもしれません。
新潟の研究者が民間企業と共同で、大根の空洞症に関する研究をされていたと聞いたことがありますが、外観から判別する方法が実用化されたかは定かではありません。