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離乳期の子豚の脱水症状を防ぐにはどうすればいい?

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離乳期の子豚の脱水症状を防ぐにはどうすればいい?

養豚が盛んな宮崎で、母豚200頭ほどを抱える養豚農家です。

豚はとてもデリケートな動物で、ストレスを感じると病気にかかりやすくなるるため、うちの豚舎では衛生管理を徹底したうえで音楽を流すなど、常に豚たちが快適に過ごせるよう工夫しています。

離乳舎と子豚舎は実現できたものの、オールイン・オールアウト(豚舎を空にしてから、新たな豚群を一定期間飼養し、また一度に空にする方式)まではできていません。
しかしどんなにこまめに世話を焼いても、離乳期の子豚は、母乳メインから人工乳摂取へ切り替わったり、腹冷えで下痢を起こしやすいのです。

そこでうちでは、離乳期の子豚がいる豚舎では温度を28℃と高めに保つようにしている(敷材はなし)のですが、残念ながら下痢が原因で脱水症状を起こして死んでしまったと思われるケースが後を絶ちません。

さらには、下痢をしておらずきちんと水を飲んでいるように見えたのに、死後に産業医(獣医)に診てもらうと「脱水症状を起こしたのだろう」と言われることも少なくありません。

先輩の養豚家に相談すると「他の豚の腹に鼻をこすりつけているのは水が足りない兆候だ」と聞いてから注意していますが、そんなことはしていないし、下痢もしていない子豚が脱水症状で死んでしまうこともあるのです。

離乳期の子豚の脱水症状を防ぐために、衛生面や温度面のほかにどのようなことに気を付ければいいでしょうか。給水はダイヤフラム式を採用しています。
(宮崎県・黒木さん/仮名・40代)

早川結子

イデアス・スワインクリニック 養豚管理獣医師

子豚の脱水症状は飲水量以外にも、給水器の形状や大腸菌症などの原因が考えられます

離乳子豚が下痢を起こしたり、また死亡豚に脱水症状が見られたりするとのことですが、まずは本当に脱水を起こしているのか、本当に脱水によって死亡しているのか確認する必要があります。というのは、動物は本来、喉が乾けば自ら水を飲む生き物であり、病気でない限り、脱水を起こして死亡するということはあまりないからです。

飲水不足が実際に確認できれば、その原因(給水器の種類や設置方法、吐水量など)を見極め、改善する必要があります。また脱水症状という病的状況があるのなら感染症の診断も必要でしょう。

通常、動物の脱水症状では、
1、目の周りが落ちくぼむ
2、皮膚の弾力が低下する(耳の皮膚をつまんで離すと、通常はすっと戻るのに、ゆっくりと戻る)
3、食欲、活力が低下する      ……などが見られます。

この3点の中で、子豚で最も顕著に表れる兆候は、3の「食欲、活力の減退」です。

離乳後1日目、2日目の人工乳の減りは、1日1頭当たり何グラムか計算してみてください。

3週哺乳で330グラムほど、4週哺乳で400グラムほどの摂餌量があれば十分ですが、これを大きく下回る場合、もしかしたら水を十分飲めていないかもしれません。

ただし、摂餌量が落ちる理由は他にもあります。

ちなみに豚は飼料の約3倍の水を飲むので、3週哺乳なら約1L、4週哺乳では1.2Lの水が1日1頭当たり必要になります。

離乳子豚に水を十分飲ませるための工夫や注意点としては、下記が挙げられます。

・水を張っても問題ない形状の餌箱なら、子豚の導入前に水を張っておく。
・水溶き人工乳を1日に複数回大きな餌槽で与える(細長い専用の餌槽も販売されていますが、餌付け用のボウルなどもやや小さいながら使えます)。
・早く給水器に馴れさせるために、離乳後数日は給水器からわざと水を滴らせておく。
・十分な給水器を付ける(1基/10頭)。
・十分な吐水量を確保する(25㎏以下なら0.5L/分)
・給水器の高さや向きが子豚に飲みやすいか、水圧はちょうどいいか確認する。
・分娩房の中にも子豚用の給水器を設置する。

なお相談者さんはダイアフラム型の給水器を使用しているそうですが、こぼし水を少なく抑えられるという利点はあるものの、ニップル式、カップ式と比べてかなり飲水量が少ないという報告があります。

水が重要な離乳豚にはダイアフラム型の給水器はあまりおすすめできないかもしれません。

また相談内容をみると
「下痢が原因で脱水症状を起こして死んでしまったと思われるケースが後を絶たない」
「下痢をしておらずきちんと水を飲んでいたように見えたのに、死後に獣医から脱水症状を起こしたのだろうと言われることも少なくない」
とのことなので、もしかすると「水が飲めていない」というより、「離乳後の大腸菌症が起こっているのではないか?」という印象を受けました。

離乳後の大腸菌症は、大きく分けて下痢症と浮腫病とありますが、前者の下痢症のほうです。

この病気は、特定の毒素を産生する病原性大腸菌によって引き起こされ、主な症状は急死です。解剖してみると空回腸内に水様物を貯留し、腸自体は弛緩してしまっています。

このように毒素によって急激に腸管内に水分が漏出し、下痢をする前に死亡することがよくあります。

下痢がなくても、死亡豚は皮膚の弾力低下や眼窩の落ち込みといった強い脱水の所見を呈します。ぜひ一度、獣医師や家畜保健所に死亡豚の病性鑑定および原因菌の分離を依頼してみてください。

病原性大腸菌は、一度発生すると感染を断ち切ることが難しい病気です。

しかし、ピッグフロー(豚を発育ステージに従ってグループ分けし、どのような順番で部屋に収容していくか、次の豚が入ってくるまでにどのくらいの空舎期間を取るかなどという、施設利用と豚の移動パターン)の見直し、豚舎の洗浄消毒の徹底、適切な投薬、母豚からの腸内環境の改善、飼料の見直し(高タンパクの飼料を長期に与えると発生しやすくなります)など総合的な対策によって克服することは可能です。

近年、大腸菌症の新しいワクチンが発売され、目覚ましい効果を上げています。大腸菌症と診断されれば、ワクチンの活用も選択肢に入れることができるでしょう。

「離乳期の子豚がいる豚舎では、温度を28℃に保つようにしている」という点についても、少し説明しましょう。

確かに専門書には離乳直後の子豚の適温は28度と書いてありますが、この温度でなければ豚にとって寒すぎるかというと、そうとは限りません。むしろ高温&換気不良では高タンパクの人工乳の食い込みはあまりよくありません。

また、さまざまな日齢の子豚が同じ棟で飼われていると想像されますが、他の日齢の子豚にとって28℃は暑過ぎる温度でもあります。

離乳舎の設備にもよりますが、あるクライアント農場では、離乳子豚は4週哺乳で24.5℃スタートで、豚の様子を見ながら目安として1週間で0.5℃ずつ温度を下げていき、最終的に7週齢で21℃~22℃まで下げています。この温度設定は、豚の状態、と飼料の食い込み、発育、下痢の改善などを確認しながら決めました。

離乳舎の温度設定は、暖め過ぎないように子豚の状態を見ながら目安を決め、あとはその時々で調節するとよいでしょう(これが難しいのですが)。

もう一点、「他の豚の腹に鼻をこすりつけている」動作ですが、これは母乳を欲しがっている仕草です。

単純にお母さんのおっぱいが恋しいということもありますが、この仕草がよくみられる場合は、「母豚の泌乳不足」か、または「母豚の泌乳は問題ないものの、餌付けが不十分なために子豚が『乳太り』になってしまっている」か、2点疑ってみます。

前者は、常に乳房に頭を擦り付けるため、同腹のほとんどの子豚の額が黒く汚れています。この場合は母豚の管理の見直しが必要になります。

後者の「乳太り」は、子豚が母乳しか口にしない状態を指しており、離乳時の体型はコロコロしているのに、離乳後にいつまでも人工乳を食べずどんどん細くなっていってしまいます。このような子豚はお腹を空かして他の子豚のお腹にお乳を探してばかりいます。

この場合、餌付けを生後1週間からしっかりと実施し、離乳後の人工乳の食い込みが良くなれば、お乳を探す子豚は減ります。また後期の飼料に早く切り替えていくことができ、その分、大腸菌症の発症リスクも減ります。

以上、離乳豚に関する総合的な管理の話になってしまいましたが、ひとつずつ取り組んで、効果を確かめてから次に進むのがよいと思います。専門家と相談しながらやってみてください。

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