島根で柿を栽培している農家です。
いまは露地とハウスでそれぞれ約40アールずつ育てていて、品種は西条柿、伊豆柿、富有柿などさまざまな柿を栽培しています。
西条柿は地域の特産品として「あんぽ柿(硫黄で燻製にした干し柿)」に加工しており、ありがたいことに販売は好調で認知度も高まってきています。
しかし、ひとつずつ手作業で吊り下げ干しているので、非常に手間がかかってしまいます。
乾燥機を導入して量産しようかと検討していますが、乾燥機だと仕上がりの色が悪くなるという話を聞き、導入に踏み切れていません。
あんぽ柿を作る際に乾燥機を導入することのデメリットが知りたいです。
(島根県・山内慎之介さん 仮名/60代)
合野充泰
兼八産業株式会社食品機械課
天候に左右されず後継者の育成にも役立ちますが、初期投資は必要です
乾燥機を使用して柿を乾燥する場合「トレーに置く」もしくは「紐で吊る」のふたつの方法があります。
トレーに置いて乾燥する方法は手間が少なく便利ですが、仕上がりは吊って乾燥させたものよりも劣ります。特に形状が少し潰れる傾向があるので注意が必要です。
ただし、平たね無し柿の場合はトレーでも問題なく仕上がります。
吊って乾燥させる場合は、吊るす作業の効率を上げるための「柿ライナー」という道具があります。
従来は紐などにひとつずつ果実を縛って吊るしますが、撞木を引っかけるだけで吊るせるようになっています。
収穫時に撞木を根もとから切ってある場合は、柿のヘタ部分に「クリップ」という部品を取り付けて、柿ライナーに吊るすことが可能です。
「手作業のものにどれくらい近づけられるのか不安がある」ということですが、乾燥機で生産した干し柿・あんぽ柿の評価は、そもそも産地によって事なります。
天候が安定しない日本海側などでは、乾燥機を使用しない干し柿・あんぽ柿の生産が難しいので、評価のベースが「乾燥機を使用したもの」になります。
しかし、従来天候が良く乾燥機が必要なかった地域では、ベースが「自然乾燥のもの」ですから、乾燥機によって生産した柿には抵抗があることもあります。
つまり、自然乾燥の柿と乾燥機で製造した柿では仕上がりに違いがあるということです。
商品の評価は、個人でするのではなく、それぞれの地域単位で行っていただくのが最良と思われます。
現在は安定した生産を行うためにさまざまな地域で乾燥機導入が進んでいる傾向にあります。
特に2000年代に入ってからは天候不順が顕著になり、自然乾燥だけでは安定した干し柿・あんぽ柿づくりは難しい状況です。ビジネスとして行うという観点から考えれば、機械化は自然な流れです。
乾燥機での柿加工に不安がある場合は、まずサンプルを製造してみて、地域での評価を求める手順が良いのではないでしょうか。
次にメリットについてご説明します。
第一に、生産が天候に左右されにくいことです。近年は特に天候不順の傾向もありましたし、今後も不安定な要因が多くあります。
1年かけて育てた柿を、この生産工程で失敗してしまえば全て台無しになってしまいます。
他にも早期出荷で単価が高くなることや衛生的に生産できること。乾燥工程を機械で数値化できるのでノウハウを伝えやすく、後継者育成にもメリットがあります。
デメリットは先述のとおりですが、今まで機械乾燥を行っていなかった地域での受け入れです。
機械乾燥は色も良く渋の抜けも良いので、客観的に見れば問題ないと考えますが、昔から伝統的な自然乾燥のみで生産していた地域では、どうしても「機械乾燥」ということへの心理的な抵抗があるようです。
このあたりが最も大きなデメリットになると考えます。
また当然ですが、初期投資は必要になりますので、手作業ではかからなかったお金がいったん出ていくのはデメリットになるかもしれません。回収までの試算をしたうえで、導入をご検討ください。