神奈川のブランド「浜なし」(幸水・豊水)を栽培しています。毎年、受粉木から蕾を摘み取り、梵天(ぼんてん)を使い手作業で受粉をさせています。
蕾を摘み取ったり、受粉したりする作業は、長時間上を向き、腕を上げながら行うため、歳も取ってきたせいもあって、私も妻もだんだんと辛くなってきました。
特に受粉作業は木の本数も多いので、サラリーマンの息子夫婦たちにも手伝ってもらいながら行っています。
受粉作業を楽にするためにミツバチの導入も考えましたが、受粉率が安定しないと聞いて諦めました。
しかし、ミツバチを導入した場合に受粉率を高められる方法があれば、検討したいと思います。そういった方法はあるのでしょうか?
(神奈川県・杉山隆さん/仮名・60代)
橋本哲弥
橋本梨園
ミツバチ授粉の課題を劇的に改善する方法はありませんが、着果率をなるべく高めていく方法をご紹介します
確かにミツバチを導入することで、梵天を使った手授粉の作業を省力化できます。授粉作業がなくなるぶん、花粉を準備する手間や購入するコストが削減できますし、労力も摘蕾や摘花などに注力できます。
ただ、まんべんなくは着果するものの、おっしゃるとおり着果のムラが生じ、手授粉に比べると、狙ったところに着果しなかったり、生育の揃いや果形が悪くなったりします。
現状では、こうしたミツバチ授粉の課題を劇的に改善する方法はありません。
ミツバチを花に引き寄せることをアピールした資材や方法を見かけることもありますが、広く普及していないところを見ると決定的な効果は期待できないのでしょう。
しかし、着果率を「なるべく」高めていくためのよい方法がいくつかありますので、以下ご紹介します。
1つめは、「面積にあった蜂群数」にすることです。日本養蜂協会の資料によると、ミツバチ1群(巣箱1つ)で40アールの面積をカバーできるといわれています。
60アールなら余裕を持って2群を設置するというように考えて設置してください。圃場が分散している場合はそれぞれの圃場ごとに、面積に応じて設置してください。
2つめは、「競合する蜜源作物の花を取り除く」ことです、レンゲや菜の花などは梨の花と開花期が一部重複します。
しかも、それらは梨の花より蜜が多いため、梨圃場の近くにまとまって咲いていると、ミツバチはより魅力的な花のほうに飛んでいってしまいます。
ミツバチは巣箱から2km程度の距離の範囲内で移動します。もし、自園の野菜畑などに競合する花が大量にある場合は、開花期前までに収穫するなどして取り除きましょう。
もし、近隣の生産者がそのような作物を栽培している場合は、開花期が重ならないように収穫時期を調整できないか相談してみてください。
3つめは、「混植」にすることです。ご存知のとおり、梨品種の多くは自家不和合性(同一品種の花粉では結実しない特性)を持っています。
そのため、一定面積内に開花時期が合う異なる品種(授粉樹)を混在させる必要があります。
熊本県の「新高」での調査によると、単植園の場合は栽培面積に対して1割以上の授粉樹が必要とされています。
新たな苗木を植えるのが難しい場合には、授粉樹となる品種を既存の樹に高接ぎする形でも対応可能です。その際には1主枝に対し1側枝以上が必要です。
なお、品種が違ってもS遺伝子型が同一のもの同士では結実しません(例:あきづき、秋麗、甘太は同じ型(S3S4)→混植しても結実しない)。導入前に必ず調べてください。
4つめは、「花芽の整理や摘蕾、摘花を徹底し、必要な花のみを残す」ことです。人工授粉のときは花粉をつけない場所、たとえば側枝先端や主枝先端の花にも着果してしまいます。
後々の摘果を楽にするためにも、不要な位置にできた花や、小花や下向き花などの変形果になりそうな花は減らしましょう。余計な花がなくなれば、必要な花(果実が欲しい部位)にミツバチが訪花する機会が増えます。
そのほか、圃場でのミツバチの設置場所なども訪花活動に関与してきます。これに関しては、ミツバチの導入時に養蜂業者さんに確認してみてください。
またミツバチは飛翔能力が高いため、設置期間中は編目の細かい防災網の展開ができませんので、ご注意ください。
ところで、近年はミツバチ以外にも授粉を省力する方法がいくつかあります。たとえばミツバチでなく、マルハナバチの導入です。ミツバチよりも果形がよくなり、低温や低照度下でも活動するといわれています。
こちらは防災網を展開しても問題なく飛行するため、導入前に網を広げれば近隣に競合する蜜源植物があっても問題ありません。
あとは、着果率と一人あたりの作業効率を高めるのであれば、花粉交配機を用いる方法もあります。
雇用せずに済ませたり、雨天後でも授粉を可能にしたいのであれば、スピードスプレーヤーで花粉噴射する装置を導入することも検討していいかもしれません。
ただし、ミツバチ授粉で省力化できる一方で、着果ムラや果形のくずれが起きやすいように、他の授粉方法でもデメリットが存在します。
ご相談者さまが「何を求めたいのか」を優先し、以上紹介してきた方法のメリット・デメリットも考慮した上で、新しい方法の導入についてご検討ください。
ほかにも梨の人工授粉について、ほかの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてください。