果樹園を営んでいる父の跡継ぎとして農業を始めて5年ほどになります。
その前は東京で結婚してサラリーマンをやっていました。子供がアレルギー体質だったので、生活環境を変えるために地元に戻りました。
農園では梨を中心に、年間を通じてりんご、柿、桃などの果物を育てています。
農業に関わるまでは気にもしていませんでしたが、梨を育てるために使われる農薬の種類の多さに驚いています。
ハダニ対策だけでも春先のハーベストオイルから初夏のフロンサイド、収穫期のオキシラン水和剤など時期によって使い分けて散布しています。他の病気の防除も必要で、トータルで年間20回程度は農薬散布を行っています。
できるだけ農薬を減らして作物を育てていきたいのですが、父から「梨は病気に弱いので無農薬栽培は絶対に無理。低農薬も考えられない」と猛反対されてしまいました。
やはり無農薬や自然栽培で梨を育てるのは無理なのでしょうか?せめて農薬の量を減らすコツはないのでしょうか?
(長野県・丸山さん/仮名・30代)
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
趣味の範囲なら梨の無農薬栽培も可能です。経済活動ならば減農薬を目指してみては?
南九州大学の環境園芸学部で、熱帯の果物を中心に果樹栽培の研究をしている前田です。
ご相談者さまは、お子さんのアレルギー体質のこともあって、余計に安全安心な作物を栽培したいとお考えのこととお察し致します。
梨の無農薬栽培は、お父さまのおっしゃるとおり、なかなか厳しいものです。例えば、庭先に1本だけ梨の樹があって、その樹だけを管理するのであれば、もしかしたらできるかもしれません。
無農薬栽培では、梨の樹に害虫が発生したらすぐに手やピンセットなどを使って除去する必要があります。つまり、毎日こまめに観察し、大発生する前の初期の段階で見つけて対応しなければなりません。
しかし、趣味ではなく経済栽培(収穫・出荷して収益を得ている)している生産者であれば、生産規模は大きいはず。その広い面積の圃場を毎日こまめに観察し、害虫を除去していくことは厳しいのではないでしょうか?
特に梨の栽培は、主要な果樹類のなかでも、「摘蕾」「人工受粉」「摘果」「袋掛け」「収穫」「出荷」「整枝せん定」等といった管理作業が多いため、時間もかかります。
こういった時間がかかる管理作業があるのに、無農薬栽培で害虫退治している間に、本来すべき作業が後回しになってしまっては本末転倒です。
確かに木酢液など害虫の忌避剤等もありますが、梨の生産で収益を上げる以上、農薬登録の使用(濃度・液量・時期・回数など)を遵守する必要があります。
忌避剤には、化学農薬に入らないものもありますが、それらの製品には紛らわしいものも多く、使用にはかなりの注意が必要です。
また、露地栽培の場合、風が吹き、雨も降ります。梨に限ったことではありませんが、農作物がかかる病気の多くは、病原菌が風で運ばれたり、雨で広がったりするのが原因です。
したがって、病気の防除には、施設(ハウス)栽培が必要になってきます。ハウス建設はお金がかかりますので、できれば避けたいところです。
以上の理由から、梨の無農薬栽培を実現させるのは、なかなか厳しいでしょう。ですが、現在は年間20回以上の農薬を散布されているということですので、散布の回数を1回でも減らす減農薬栽培をご検討されてはいかがでしょうか?
栽培方法や栽培環境を適切にすることで、病害虫が発生しにくくなることを耕種的防除と言いますが、これを実践することで農薬の散布回数を減少させていくことは、農薬を使わない無農薬栽培に比べれば、ハードルは低いと思います。
耕種的防除の例をあげれば、①病斑を見つけたらすぐに切除して圃場外に持ち出す、②雑草は害虫のすみかになるので除草を徹底する、③過繁茂しないように樹体を適宜せん定し、通風環境を整えるなど、さまざまな対策があります。
これらは、あくまで私の個人的な提案ですので、ご相談者さまの方でご無理のない範囲内で取り組まれてはいかがでしょうか?
以上、私が思い当たる点をいくつか書かせていただきましたが、現場の状況を把握できておりませんので、的外れなことを書いている場合も多々あるかと思います。その際はご容赦下さい。ご相談者様の方で、何か参考になるところがありましたら、取り組んで頂けますと幸いです。
上記の回答につきまして、何かご不明な点がありましたら、遠慮なさらずご連絡下さい。