私はこれまで約20年にわたって、父と2人で穀物を中心に育てています。
ここ数年、秋まき小麦を育てるときは、元肥と春先の茎立ちする直前くらい(背丈が20センチメートル〜30センチメートル未満)に、追肥として速効性のある窒素肥料(硫安)を使用しています。
しかし、思ったように収量が増えません。
秋まき小麦の収量の目安は、肥料メーカーのセミナーで聞いた「窒素量1kキロに対して平均で33.8キロの全粒収量」を基準にしているのですが、寒い天気が続くと収量が減ってしまうのです。
半年に一度、JAの土壌成分の検査を受けていますが特に問題は見つからないので、窒素肥料の与え方に問題があるのではと考えています。
窒素肥料のタイプやあげるタイミングが問題なのでしょうか?何か原因があれば教えてください。
(埼玉県・町田さん/仮名・50代)
池田夏子
FOODBOX株式会社/CMO、フードカタリスト
「穂肥」を重点的に与える小麦の施肥設計を試してみてください
土壌の状態や品種、気候等の詳細が分かりかねますので、ご参考程度にお読みいただければと思います。
まず、収量増加が見込まれる「小麦の施肥設計」はさまざまに研究されておりますので、相談者の方も圃場ごとに異なる施肥設計を行って、ようすをみてはいかがでしょうか?
私がご紹介できる窒素の施肥設計としては、穂の籾(もみ)を充実させることを目的とした「穂肥」(ほごえ)を重点的に行う方法があります。
これは端的に言うと、「元肥」や「分げつ肥」(種子から出た茎の根元から新しい茎が出てくる時期に合わせて与える肥料)を省略して「穂肥」を増やす方法です。
下記でご紹介する施肥量の表は、山口県の奨励品種(西南暖地向け)であるパン用小麦品種「せときらら」を対象とした実験のものです。
穂肥を2回に分けて、さらに施肥量を増やしています。具体的な窒素の施肥量は表をご参照ください(単位はg/㎡で、窒素施肥はどちらも尿素を用いました)。
この中で数値を見比べてみると、慣行分施区に比べて、穂肥を重点的に施肥した試験区の方が、有意に収量が向上しています。
ただし、山口と埼玉では気候も異なりますので、あくまでひとつの方法としての回答になります。参考にしてみてください。
埼玉県 大里農林振興センター 農業支援部
埼玉県農林部
茎立ち直前が目安。ただし塩基バランスや酸性度に問題がなければ、ほかの原因も考えられます
埼玉県は麦の主要な生産県として知られ、その中でも当センター管轄の熊谷市は、埼玉県内で1位の作付面積を誇っています。
これは、明治から大正にかけて麦の増産の研究に取り組み、麦踏みや二毛作といった技術を全国に広めたことで「麦翁」(ばくおう)と讃えられた熊谷市出身の農業者・権田愛三(ごんだあいぞう)の功績によるところが大きいといえます。
以来、熊谷市は「国産麦の聖地」と称されているほどです。
さて、小麦に限らず農作物の収穫量は、その年の気象条件や環境の違いなどによって変わってきます。ですからここでは、あくまで一般的な内容としてお答えさせていただきます。参考になれば幸いです。
埼玉県で主に栽培されている秋まき小麦品種は、「さとのそら」と「あやひかり」の2品種です。多分、質問者が栽培している品種もこのどちらかではないでしょうか。
埼玉県の施肥基準では、「さとのそら」の10aあたり窒素施用量は元肥として6キログラム、追肥として4キログラムです。
また「あやひかり」の10アールあたり窒素施用量は元肥として8キログラム、追肥として2キログラムとなっています。これらを基準にして、元肥では地力や土質、追肥では気象条件や生育状況に応じて施肥量を増減させる必要があります。
追肥のタイミングは、茎立ち直前の3月上旬〜中旬が目安となります。特に「さとのそら」は穂数が多くなりやすい品種のため、追肥が重要です。
追肥の際に石灰窒素を用いれば、生育後期まで肥効が持続して、収量やたんぱくの向上に寄与します。
ご相談の収量については、麦類が低収になる要因は複数あるため断定することはできません。
しかし、もし半年に1度の土壌診断で塩基バランスや酸性度に問題がなければ、湿害や乾燥、作土層の厚さ、土壌の圧密化、雑草害などが要因である可能性が考えられます。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構による「診断に基づく小麦・大麦の栽培改善技術導入支援マニュアル」かWebサイトで公開されていますので、確認することをおすすめします。
収量が上がらない事例が細かい写真入りで解説されており、圃(ほ)場のタイプごとのチェック項目や対応策も紹介されていますので、参考にするといいでしょう。
また、埼玉県内の麦生産者には、「麦暦」(むぎごよみ)が無料で配布されています。ご存知でないようでしたら、地元のJAから入手して参考にしてください。
冒頭で申し上げたとおり、個別の栽培条件によって対応方法は変わってきます。
よりきめ細かい技術対策については、お住まいの地域を管轄している農林振興センター(県内8カ所)にご相談ください。