私は新潟県の米農家で、コシヒカリを生産しています。以前は雪深い地域でしたが、近年積雪は少なくなりました。
私が農業をしている地域は田園地帯で、特に目立ったものがあるわけでないです。
しかし、都会の人には田舎の風景が魅力的なようで、最近、田んぼのあぜ道で写真や動画の撮影をしたり、田んぼに足を踏み入れたりする人が増えています。
写真を共有するInstagram(インスタグラム)や、動画を投稿するYouTube(ユーチューブ)などのSNSが人気なのも関係しているのでしょうか。
ですが、こうした人たちが車で乗り入れたり、ゴミを放置していくこともあり、こうなると農作業にも影響があるので困っています。
うちの地域に人が集まってくることは悪いことではないので「写真を撮るな」「入ってくるな」と言いたい訳ではありませんが、今後このような状況がエスカレートするようであれば、厳しい対策を取らざるを得ません。
同じような不満を抱いている農家さんもいると思いますが、何かマナーを守って撮影してもらう、いいアイデアや取り組みがあれば聞かせてほしいです。
(新潟県・相田さん/仮名・50代)
村瀬雄太
ファームコネクト
注意書きの看板と、撮影歓迎の「写真専用スポット」を設置しましょう
我々がお世話になっている観光農園「中込農園(山梨県南アルプス市)」にお聞きしたところ、「目立つ看板を立てること」がもっとも効果的だったそうです。
外国語での表記もあるとさらに良いでしょう。あらかじめ、不要な農地を「観光者用」として用意し、撮影スポットとして開放・アピールする農園もあるそうです。
また、「自身がどれだけ悩んでいるか」をSNS(ソーシャルネットワークサービス)、特にTwitterに投稿すると、注目される傾向があります。たとえば、コロナで売上が落ち込んで困っていることを書いたツイートなどは同情が集まり、広く拡散されることもありました。
ただし、同じような投稿を続けることは難しいので、看板や写真スポットを設置することがベストだと思います。
後藤健太郎
日本交通公社観光地域研究部 地域戦略室 主任研究員
観光客の共感を呼ぶ看板を設置して、成功した事例があります
マナー違反は、無知や無理解によるものと、自分勝手な行動によるものの2種類があります。マナー違反の観光客がいると、良心的な観光客の満足感が失われるため、対策が必要です。
観光客とどのような関係を築くか、その場所をどう使うのが農家・観光客にとって好ましいのかを検討しましょう。
北海道の美瑛町では、かつて観光客の迷惑行為により、町の象徴である立派な「哲学の木」を切るところまで追い詰められましたが、これをチャンスに変えるべく、農地所有者の名前を書いた看板を設置。
看板にQRコード(スマホのカメラなどで読み取れるバーコードのようなもの)を添え、農家のメッセージ動画や農産物の通販サイト、クラウドファンディング(インターネットで資金を集める仕組み)などにリンクさせました。
あえて「立ち入り禁止」と書かず、農家と観光客の間に好循環を生み出そうという狙いです。
ただし、忙しい中、誰がどれぐらいの労力で対応するのかなど、考えるべき点は少なくありません。ですが、すでに好ましくない行為があるなら、エスカレートする前に予防策を検討し、負荷のない範囲で新たな関係作りの案を考えておくとよさそうです。