京都府の片田舎の兼業農家です。
現在、米作りは7年目。定年退職後、田舎に帰り、父親に代わって畑を守っています。
まだまだ勉強不足で、毎年、収量が安定していませんが、ようやく米作りにも慣れてきたところです。
米は収穫、乾燥、籾摺(もみすり)後、検査の過程を経てから売りに出されたり、手元に帰ってきますが、同じ地域、同じ環境下にある圃場の中でも、一等の評価だったり二等の評価だったり、安定しません。
一等米と二等米とでは、売った時の値段も30キロあたり300円くらい違うため、毎年すべての圃場で安定して一等米を作りたいです。
一等米を多く生産するにはどうすればいいでしょうか?
(京都府・橋本さん/仮名・60代)
松本友信
松本友信
生産の目的をはっきりとさせた上で格落ちの原因を探り、対応しましょう
一等米、二等米、三等米の違いは見た目の違いであって、特に一等米と二等米には、必ずしも味との相関があるとは限りません。
一等米から二等米に格落ち(等級がさがったこと)の理由が、例えば「乳白」(半透明なお米が真っ白になること)や、「胴割れ」(米粒に亀裂がはしること)の場合は、味に関係します。
しかし、「カメムシ」(虫による食害)であった場合は、味との相関はあまりありませんが、窒素過多でカメムシが多発した場合は、味が落ちる場合があります。畦畔の草刈りを怠るとそこから入る場合もありますので、ご注意ください。
同じ一等米でも、産地や品種、生産者、圃場、生産方法の違いで味は千差万別です。味に優劣はあっても、JAなどへ出荷する場合、同じ地域の一等米ならすべて同じ単価となりますので、味で評価されるわけではないのです(三等米になると、さすがに精玄米が少なくなり、くず米が多くなるので、味は悪くなります)。
さて、ここからが本題です。
一等米を安定生産するコツはたったひとつ。それは「欲を出さないこと。」です。
「多く生産する」ことと「良いものを作る」ということは、実は矛盾しやすいのですね。
しかし、質問には「一等米を多く生産するにはどうすればいいでしょうか?」とあります。
この矛盾したことを解決する方法があります。それは「土づくり」に継続的に力を入れることです。
それを怠って無理に収量をあげようとすると失敗します。
また、土づくりをしっかりしていても、圃場に元々ある地力以上に収穫しようとすると失敗します。地力に応じて、収量の目標設定をすることが肝心です。
また、たくさん収穫しようと密植や「太植え(1株に多くの苗を植えること)」にする農家もいますが、コシヒカリなどの倒れやすい品種は風通しよく育てましょう。
ここで言う密植とは、一般的に植え付け株数が多いことを指します。例えば、1坪に何株植えるかで、最小が37株、45株、50株、60株、70株、80株と多くなりますが、これは田植え機のレバーを動かすことで調整できます。コシヒカリで密植は70〜80株が目安で、一般的には、50〜60株、疎植なら37〜40株といったところでしょう。
このように、品種特性の応じた栽培方法をしてみるのも大事なことです。でも1株に苗を何本植えるかも重要な指標となります。私が考える理想は、3本植えですが、これだと田植え機は0〜5本の範囲で植えていきます。しかし一方で、植えていない欠株が多くなると言う問題があります。そこで大半の農家では1株あたり4〜5本植えを目指して、欠株が出ないよう気を付けています。
一方で、1株に6〜8本などたくさんの苗を植える人もいます。これを「太植え」とか「大苗」と呼ぶのです。
それでも二等米ばかりができてしまう……という場合は最後の手段があります。
それは、色彩選別機(米を機械が色で判別し、悪い米粒を飛ばす機械)にかけたり、粒選別機(粒の厚さでくず米と精玄米をわける機械)の網目を大きくすることです。
編目を大きくすれば効果は大ですが、くず米を多く出してしまうため、収量は減ります。ですが、色彩選別機での収量減はさほどではありません。この機械はピンポイントで弾くからです。
質問者さんは京都の60代兼業農家さんですね。京都は中山間地で盆地も多いので、苦労されていることでしょう。
前述の通り、コシヒカリであれば少し疎植にしても、その分、稲穂の粒数(専門用語では「一穂粒数」)が増えるため、思ったほど収量は減りません。むしろ増収することもあります。
一等米と二等米では、わずか300円分の違いしかなく(JA出荷価格)、前述の方法で一等米を出したとしても、300円以上分の収量が減り、結局売上が下がるということも考えられます。
結局、どんな目的でお米づくりをされているのか、まずはそこからはっきりさせましょう。
単に売上を多くしたいのであれば、単価×収量で売上は決まるので、質を重視すれば売上が減る場合もあります。
味を求めたいのであれば、収量を減らしてでも健康に育てなければなりません。
この場合、JA等に出荷しても、一般の一等米と一緒にされるので、個別に販路を開拓した方が良いでしょう。
どちらにしても、結論は土づくりにあるかと思います。
最後に補足ですが、今までどんな理由で二等米になったのかを調べてみましょう。
それが分かればより対策しやすくなります。
「乳白」の場合は粒数や穂数が稲の体力や天候による恩恵よりも多すぎたからです。
「胴割れ」は水管理や乾燥に原因があります。
「カメムシ」は雑草管理である程度防ぐことができますし、肥料過多でも発生します。
「整粒不足」(粒の大きさがそろわないこと)の場合は前述の粒選別機の設定を変えてみましょう。
「着色粒」(米粒が変色すること)「異物混入」の場合、これにはさまざまな原因があります。異物混入ならば、雑草の防除が肝心です。
竹本彰吾
有限会社 たけもと農場
永遠の課題ですが、できることをやってみましょう!
品質を安定させたいのは、永遠のテーマですよね。僕も同じく頭を悩ませている課題です。
お米については、毎年天候が変わる、土壌も変化する、水温もコントロール出来ないといった、自分の努力で賄えない領域が大きいので、なおさら難しいです。
まさに先人たちが残した「農家は毎年一年生」の言葉通りですね。毎年毎年、新たに勉強することばかりです。
僕たち生産者ができることは少ないですが「そんな中でできることをやる!」。それに尽きると思っています。
中でも土づくりは長く良い影響をもたらしてくれるのでおすすめです。
地域で進められている土づくり(JA等で指導されている土づくり資材の散布等)から始めることをおすすめします。
これだけだと、その場で足踏みさせてしまうだけなので、僕のやっていることをいくつか挙げてみます。
まずは、農業振興協議会などに所属して、勉強会に参加することです。
これは技術的なことだけでなく、経営についても学ぶことができます。
次に、新しい肥料や新しい技術などを実践することです。
地域の普及所に教えを仰ぎ、いろんな意見が集まれば集まるほど最適解に近づくのではないかと思っています。
最後に、情報発信をすることです。
ただ単に、これが知りたい!を発信するだけでなく、これを実践してみたといったことを積極的に発信し「ここがわからない」を織り交ぜるといいですよ!
佐々木茂安
日本のお米をおいしくしたい。佐々木農業研究会代表/農業経営技術コンサルタント
紋枯病対策がおろそかになっていないか、見直しましょう
稲の登熟は、育苗の良し悪し、植え付け方、栽植密度、施肥等の栽培方法、水管理、土壌の状態などさまざまな要因があることはよく知られていると思います。
一方で、近年、安全安心のために、何かと農薬の使用が控えられる傾向があります。
農薬は、殺虫剤と殺菌剤に分けられ、「斑点米」の要因となるカメムシ類は殺虫剤で防除できます。
斑点米は、買取業者がクレームを出してきやすいので、特に注意が必要です。
一方で、「いもち病」や「紋枯病」等の糸状菌類、ウィルス病などは、収穫間際になってから発生していることに気がついて、何もできないことが多くなっております。
虫害に対し、病害は進行が比較的ゆっくりなため、発見が遅れることが多く、また、紋枯病などは株元で発生するので確認が難しく、症状が見える頃には酷い状況になっていることもあります。
病害の特徴は、光合成を行う葉に影響し、光合成能力の低下、これが下位葉でおこると根の活力低下に結びつき、さらに葉鞘で病状が進むと倒伏に結びつきます。
いもち病は茎葉や穂首に発症し、水や養分供給経路の遮断に至ります。
また、紋枯病は、先の症状のすべてに至り、登熟を悪くします。
滋賀県の事例ですが、有人ヘリによる共同防除を廃止し、合わせて、環境にこだわった農薬の使用成分を削減したため、紋枯病の防除面積が減りました。
その結果として、その年から1等米の比率が低下の兆候が見られ、その後ずっと低迷しております。
ちょうどこの頃から、根拠無く「高温が登熟障害の原因」と言われだし、結果として紋枯病対策がおろそかになり、現在もこの状況が続いているからです。
安全安心の合い言葉のもと、実は手抜き農業になっていないか?再度ご検討ください。