愛知県で多品種の作物を育てています。
小規模農業なので儲けが大きいわけではありませんが、旬の朝採り野菜セットなど、オリジナルの商品をネット通販で販売しています。
自然と共生することを第一に考え、妻と娘の家族3人で楽しみながら生活しています。
最近になって小学生の娘が犬を飼いたいと言い出しました。
最初は世話が大変そうだと思ったのですが、考えてみればサルやアライグマ、ハクビシンなどの被害がたびたび出ています。
ならば被害を防ぐ「パートナー」として家族に迎え入れ、一緒に農作業をしていくのもアリだと思うようになりました。
娘はトイ・プードルやチワワなどの小型犬を飼いたがっていますが、さすがに小型犬は農業犬としては心もとないです。
きっと役に立たないでしょう。
かといって大型犬の世話も大変そうです。
そこで中型犬で農業犬に適している犬種を知りたいです。
(愛知県・竹内陽久さん/仮名・40代)
吉田洋
合同会社獣害対策研究所/徳島県那賀町地域おこし協力隊
農業犬の性格で選び、「待て」「来い」「サルへの条件付け」の訓練をしましょう
私が研究をしてきたサルなどに農作物や住民が襲われないように里(地域)の安全を守ってくれる「里守り犬」(通称モンキードッグ)について紹介させていただきます。
まずは犬の選び方です。モンキードッグにふさわしい犬選びのポイントは、品種よりも人や他の犬に友好的な性格であることが重要です。
攻撃的な犬は向きません。一般的に攻撃性が少ないとされる犬種でも攻撃性の強い個体は不向きで、逆に攻撃性が強いとされる犬種でも攻撃性のない個体は適しています。
できるだけたくさんの人や犬に会わせてみて、その犬が誰とでも仲良くできるかをじっくり見分けて判断しましょう。
また、動くもの(とくにサルや猫などの動物)を見つけると興奮して追いかけようとする犬は適しています。
サルからの反撃を防ぐことができることも重要ですので、相談者様がおっしゃるとおり娘さんの希望する小型犬は難しいですね。やはり柴犬や甲斐犬のような中型犬か大型犬(体重10kg以上)がふさわしいです。
続いて訓練方法についてです。できれば生後6か月あたりから本格的に調教を始めます。
若い犬ほど物覚えが早く、引退まで長い期間活躍できるからです。特に重要なのが「呼び戻し(来い)」と「サルへの条件付け」の訓練です。
まず最初に「待て」を覚えさせます。以下の手順で教えましょう。
1)犬にロングリード(10mほど)をつけ、座らせる
2)「待て」と指示を出して後ろに一歩だけ下がり、犬が立ち上がる前に犬の元に戻り、ご褒美のエサ(ベイト)を与える
3)犬の様子を見ながら、徐々に犬から離れる時間と距離を長くしていく
「待て」ができるようになったら、「来い」の命令を毎日トレーニングして徹底的に強化します。
1)犬にリードをつけ、「待て」と命令する
2)そのまま二、三歩下がり、犬に「来い」と指示を出す
3)犬がすぐに来なかったら、「来い」と呼びながらリードを引き、犬を誘導する
4)犬が来たら「座れ」と命令し、ほめてベイトを与える
5)それを何回も繰り返し、離れる距離を徐々に長くしていく
訓練については、命令と指示、できた時のご褒美の繰り返しで離れる距離を長くしていきます。条件反射的に指示に従うようになるのが理想です。
肝心なのが「サルへの条件付け」です。小動物に強い興味を持つ性格でしたら不要ですが、できれば野生のサルを犬に見せましょう。
有害鳥獣捕獲で捕まえたサルを調教に使わせてもらうと良いでしょう。その手順は以下の通りです。
1)リードを短く持ち、サルが捕まっている箱罠に近づく
2)犬がサルのニオイを 嗅いだり、サルに向かって吠えたり、サルを噛もうとしたりしたら犬を言葉で褒め続ける(犬が興奮状態になっても止める必要なし)。サルに無関心か怖がる場合は、 無理 をせず、箱ワナ から 二、三歩離れてサルを見せる。近所にサルに向かっていく犬がいる場合は、その犬がサルに向かっている姿を見せると、興奮してサルに向かっていくようになることもあります
3)サルを放獣 できる場合は、サルを放した 直後に犬を放すと、本能的に犬がサルを追いかけることが多いです。もし訓練がうまく進まないときには、プロの訓練士さんに犬を見せてアドバイスをもらうことをおすすめします
サルに対して吠えたり、噛もうとしたら褒め続けます。もしサルに無関心、もしくは怖がる場合には、無理せずにサルに対して興奮するように訓練していきます。場合によってはプロの訓練士さんに犬を見せてアドバイスをもらうことをおすすめします。
モンキードッグの運用にあたっては、サルを見つけたら教えてもらうような地域住民との連携を構築してください。
また安全性を意識してください。サルが集団で集落に出るときは、たいていすぐ近くの森の中に仲間がいます。そこで犬を放すことで安全に運用できます。
放す前には、小さなお子さんやお年寄りなどが近くにいないかなど、安全確認を必ず行ってください。