山間地で水稲と直売所向けの野菜づくりを行っています。周囲を山に囲まれた地域なので、イノシシや猿、タヌキなどの被害がひどい状態です。
ただでさえ高齢化が進んで、農業の担い手が少なくなっている地域なのに、こうした獣害で高齢農家がやる気をなくしてしまい、特に山沿いの畑で耕作放棄地が増えています。
聞くところによると、近くのらっきょう畑では獣害による被害を受けていないそうです。
らっきょうに限らず、臭いのあるにんにくや辛い唐辛子などは獣が食べないという話を、農家仲間からよく聞きます。
こうした作物を畑の周りに植え付ければ、害獣の被害を無くしたり、減らしたりすることができるのでしょうか?
(山口県・藤本薫子さん/仮名・50代)
古谷益朗
野生生物研究所ネイチャーステーション
人間とは異なる動物の味覚や嗅覚。忌避作物は基本的には無いと考えて
「ニオイ」や「辛さ」といった感じ方は人間と動物では異なります。
食べない(忌避)のではなく、優先順位の結果からニオイの強いものは嫌がるとか、辛いものは嫌がるなどと言われるようになったと考えられます。
古来から、シカは毒性のある植物や苦みの強いものは食べないと言われてきました。確かに毒性のあるアセビやタンニンの強い茶などは食べられていませんでした。
しかし、現在ではアセビの新芽は食べるようになり、茶畑も丸坊主になるくらい食べられる被害が起こっています。
その地域に生息する動物の数が増えて、食べ物を選んでいる場合では無くなると食べるのです。
唐辛子の数倍の辛さを持つ合成カプサイシンでも平気で舐めることもわかっています。
動物は種によって味覚が違います。基本的には忌避作物は無いと思っていただいた方が良いと思います。
美味しいもの、好みのものを食べていて、それで動物が満足しているから「選ばないもの」があるのです。
そして、この食べないものに、我々人間が感じる独特のニオイや刺激物などが含まれているものだった場合に、私たちの方で「この植物には動物が嫌がる忌避効果がある」と思い込んでしまっているのです。
つまり、人間がイヤだから、きっと動物もイヤがるだろう…という感じです。
サルの味覚は人間に近いところがあって、唐辛子の辛みは感じているようですが、渋柿を普通に食べるので、まったく同じではないと思われます。
また以前、イノシシは「古代米は食べない」と信じられてきました。他の品種は食われても、古代米だけは残っていたからです。
しかし、ある年、あまりにイノシシの被害がひどいので、1軒の農家がすべて作付を古代米に変えてしまったという話があります。
その結果は…、期待を裏切って、イノシシ被害が起きてしまいました。
それまで古代米の被害がなかったのは、イノシシが「嫌いだから食べない」のではなく、「他にも食べ物がたくさんあるので、古代米まで順番が回らなかった」だけのことなのです。