滋賀県で近江の野菜を父とともに育てています。最近ではうちの周りでも農地を手放す人が増えていて、耕作放棄地も活用しながら農業をしています。
70代後半の父も大きな病気やケガもせずに元気に作業をしていますが、トラクターの操作をみていると、危ないと思うことが増えてきました。
とくに左右のブレーキペダルを連結し忘れて、急旋回して横倒しになりそうなことが増えています。
高齢者の自動車事故がニュースになったり、トラクターの死亡事故などを耳にするたびに心配になってしまいます。
本人は頑固で「トラクターに乗るのは禁止!」と言ってもまったく聞き入れてくれません。
仕方ないので、なにか防止策がないか考え中です。たとえば、左右のブレーキペダルの連結忘れを防ぐ方法などはないのでしょうか?
(滋賀県・西村さん/仮名・50代)
東 直斗
株式会社クリアー
事故防止装置が装備されたトラクターも増えていますが、まず家族で話し合いを
トラクターを走行させる際の片ブレーキ状態を防止したいとのことですね。
現行の機種では、路上走行の際の左右のブレーキが連結されていない状態を防止するためのロック装置が標準で装備されているものが多くなっています。
また、井関農機では特定の機種に限りますが、片ブレーキで走行した際に警告音を鳴らす装置もオプションで発売されているようです。ぜひ商品情報を確認のうえ、一度ご検討ください。
ただ、ご存知のとおり、普通車においての高齢者ドライバーによる交通事故は、社会問題となってきています。
農林水産省による令和3年の発表によると農作業中の死亡事故の約9割が65歳以上の高齢者となっています。
自動車の運転免許も自主返納がすすめられる時代です。トラクターなどの農機具も運転をしないように促すようなことも必要なのかもしれません。
やはり最後は命や安全が最優先ですから。事故防止装置が装備されている機種の導入も含め、充分にご家族で話し合って検討していただけましたら幸いです。
皆川啓子
農業・食品産業技術総合研究機構 予防安全システムグループ 主任研究員
トラクターの事故防止装置は進化していますが、万が一のために備えを
一般的な車輪の乗用トラクターでは、ブレーキペダルが左右のタイヤで独立してかかります。
これは旋回時に内側のリアタイヤだけにブレーキをかけて小回りを効かせるためです。
しかし、路上で比較的高速で走っている時にブレーキを片側だけ踏んでしまうと、急旋回を引き起こしてしまいます。
急旋回により衝突や転倒、転落といった事故につながりますので、大変危険です。
ですから必要な時以外は、左右のブレーキペダルを確実に連結して左右同時にブレーキが掛かるようにしなければなりません。
じつは平成10年(1998年)からは左右のブレーキペダルが非連結状態には、それを警告する装置の装着が定められています。
ですから安全性検査の基準に合格した農機には「ブレーキ非連結」を示す赤い警告ランプなどが必ず備わっています。
まずはお使いになっているトラクターに警告装置が付いているかをご確認ください。
平成27年(2015年)からは、片ブレーキ防止装置が搭載されたトラクターが登場しました。
これは運転者が必要とした時だけ、連結解除ペダルを左足で操作して左右のブレーキ連結を解除し、片ブレーキ操作を行うことができます。
現在は国内4社(クボタ、ヤンマー、井関・三菱マヒンドラ)から販売されています。Webサイトでも動画をご紹介しているのでご覧になってください。
片ブレーキ連結防止装置が搭載されたトラクターですと、左右ブレーキの連結忘れのリスクを下げることが可能になります。
しかし、万が一の転倒・転落事故に備えて、安全キャブ・フレーム仕様のトラクターをご使用いただき、シートベルトを締め、さらにヘルメットを着けていただくことをおすすめします。
ただし、ご高齢の作業者様がトラクター操作に不安を覚えた場合には、運転を控えていただけるようにすることも事故を防ぐ有力な選択肢となります。
機械作業は担い手層が行い、経験が必要な他の作業を年配の方が行うといった作業分担などもご検討されてはいかがでしょうか。