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牛による人身事故を防ぐために注意すべき点は?

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牛による人身事故を防ぐために注意すべき点は?

日中は放牧しながら乳牛を飼っています。

最近、親牛の出産に立ち会っていて、生まれてきた子牛に粉末初乳を与えていたら、繋いでなかった親牛に勢いよく後ろから突進されて押し倒され、危うくケガするところでした。

これまでも、搾乳時に後ろ足で蹴られたり足を踏まれたり、放牧場から牛舎に牛を入れる際に、興奮して逃げ出した牛にモクシを付けて牛舎へ引っ張ってこようとして暴れられて引きずられたりと、危ないことは何度かありました。

私に限らず、酪農家や肉牛農家なら少なからずこうした危ない目には遭っていると思います。牛は巨体なので突進されたり、蹴られたり、踏みつけられたりすれば大事故につながりかねません。

牛は普段はおとなしい性格なので、暴れる原因になる恐れや興奮状態を起こさせないことが重要なのでしょうが、牛を取り扱う上で普段から飼育者側が行動や接し方で注意すべき点を教えてください。
(北海道・清水一郎さん/仮名・50代)

加藤武市

加藤技術士事務所

牛による人身事故の対策には牛舎環境や構造改善を進めましょう

ご相談者さんがいる北海道では、牛との接触による負傷事故が年間 700 件以上も報告されています。

放し飼いでは牛の移動時に事故が多い。放し飼いでの牛の移動中の事故では、施設の改善により人と牛を分離することで事故の低減が期待できるなどと農研機構が報告しています。

農作業における死亡事故の件数は、産業別でも建設業の 2.5 倍と、最も危険な業種です。事故がなかなか減らない背景には、農業で多くをしめる家族経営は、労働安全衛生法の適用外となるため、事故が発生しても報告義務がなく、安全管理上の指導を受ける義務がないからです。

従って、事故要因の分析がされず、的確な対策がとれないうえに、作業現場での安全管理体制の徹底化が進まなかったことが挙げられます。

私が福井県の畜産試験場に在職中に起こった事故では、肉牛農家の奥さんが飼料作物の栽培管理中に、斃れてきたトラクターの下敷きになって死亡したケースがありました。当時は、キャビン付きトラクターでなかったことが原因でした。

酪農現場で牛と接触する事故は、繋ぎ飼いと放し飼いの違いで異なってきますが、繋ぎ飼いは搾乳時に、放し飼いは牛の移動の時に多いのが特徴です。今回は「放し飼い」のみに述べます。
                                                                         
一般的に指摘されていることですが、下記の「牛に対する接し方」を前提に、過去の事例や福井県時代の指導経験からご紹介します。

●牛に対する接し方
・牛の死角(真後ろ50°範囲)から近づかない
・近づく時には声かけ、牛体に触れて自分の存在を知らせる
・牛をおどろかせるような大声や大きな音を出さない
・逃げ場がないような場所に立たない
・嫌がる牛を無理やり動かそうとしない
・痛みを与えない
・暴れる恐れがある場合は固定物に確実に保定する 


万が一のことを考えて、「労災保険」に加入しておきましょう。ちなみに北海道で報告された事故の被害者はすべて加入していましたが、被害者が作業できない間、休業補償をヘルパー代に充当することで経済的な負担を免れていました。

では、次に比較的一般的な事故のパターンを取り上げて原因と対策をご紹介します。

▼事故A「人為的な事故」のケース
発生前にミルキングパーラー前の待機場内で、背後にいた牛がぶつかってきて転倒した事故が報告されていますが、この場合の対策としては、待機場やパーラのストールに入る時は必ず2人以上のペアになり、常に背後を警戒することが必要です。

▼事故B「牛のロープの長さ不足」ケース
初産後の牛にモクシをつけて搾乳牛舎へ連れていく途中、牛が違う方句に走り出したために、引っ張られて前のめりに転倒。その時、ちょうど牛の後足が顔面に当たって打撲した事故もありました。

この事故の現場には柵がなく、被害者はリスクが高い牛だと認識しながらも直接触ってしまいました。もし、牛に引っ張られて転倒したら、すぐにロープから手を離すべきなのですが、この時は手にロープを手に巻きつけていたために、長さが足りなかったなど、複数の要因が重なったケースです。

▼事故C「設備の不具合」のケース
これは、事故が起きる数日前から回転アームの調子が悪かったのに、修理をしないで、ストールに入ったことで起きた接触事故です。回転アームが正常であれば、被害者がストールに入る必要はなかったため、事故は未然に防げたはずです。ふだんから設備の機械整備を行っておくことの重要性が改めて認識された事故です。

事故の原因の上位にあげられるのは、体重約650kg前後ある搾乳牛を、力づくで動かそうとしたり、挟まれる危険性のある場所で牛を誘導して、牛と柵や壁の間に挟まれたり、蹴られたり、踏まれたりするケースが多くみられます。そこには、日ごろから牛の扱いに慣れているという、油断や気の緩みがみられます。

事故を防ぐには、牛と壁や柵の間に入らないことが一番ですが、人間だけが通り抜けられるマンパスという隙間を設けておくのもひとつの手段です。

搾乳中の接触事故を防ぐためには、何かあった時にすぐに逃げられるよう足下がよく見えるように明るくしておくことや、作業者の頭の高さの位置にパイプや梁を配置しないなどの改善によって、つまずいて転んだり、頭をぶつける負傷事故が減少するという報告もあります。

手近な方法としては、安全靴を履くことで、万が一牛に踏まれても足先を防護することができます。

作業者の安全が確保されていない場所には、以下のような特徴があります。

1、作業者が退避するためのマンパスがない〜通路や待機場、乾乳牛舎と搾乳牛舎の間、あるいは牛舎と削蹄枠の間に、柵で囲った通路が設けられていないため、柵の外から牛を誘導できるような構造になっていないのです。

2、牛を間接的に誘導できる通路やシュートがない〜放し飼いの牛を移動させる時に起きる事故では、作業環境や安全管理上の要因が重なるケースも見られます。そこで、作業者が牛と分離できて、間接的に誘導できるように牛舎構造を工夫することで、かなりの事故が防げます。作業者と牛の動線を考慮に入れて作業環境の改善を検討してみてください。

3、高リスクの牛は識別しやすく〜蹴り癖のある牛や病気の牛などの個体には、識別用のマークを足首に巻くなどの工夫も効果があります。

4、スリップ防止用のおがくずを撒く〜牛が突然、作業者に向かって進んできたので、逃げようとして足を滑らせて、腰をひねるなどといった事故も多いため、足元には滑り止め対策もしておきましょう。

安全の基本は「整理」「整頓」「清掃」「清潔」の4つの「S」を心がけることが重要です。

4S運動は、収益性の向上とは一見すると関係がないようですが、作業時の動線の単純化や能率アップをはかることで、結果的に収益性の向上につながります。

酪農王国である北海道では、トラクターなどの事故より、搾乳時や移動の際に牛に蹴られるといった家畜が原因の事故が多いもの。

「労働環境が整備されている酪農家ほど、牛舎内労働時間が短く、個体乳量が高い」という報告もあります。安全安心な農産物と良い経営のために、安全安心な農作業現場作りもぜひ意識していただければと思います。




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