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乳牛の乳量が減少しました。暑さの影響だと思うので暑熱対策について教えてください

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乳牛の乳量が減少しました。暑さの影響だと思うので暑熱対策について教えてください

静岡県で乳牛を育てております。

ここ数年の傾向ですが、夏場になってくると乳量が減少してきます。

私はこの仕事を30年以上続けてきていますが、春が終わると一気に夏に移行していくような印象です。

加齢のせいもあるでしょうが、私自身もだんだんと暑さに耐えられなくなってきています。

きっと乳牛たちも同様に暑さにやられていると想像しています。

実際、暑さが続くと食欲が落ち、それに比例して乳量が減少しています。

先日、仲間の牧場で猛暑日に数頭がバタバタと死んでしまいました。

今後も酷暑は続きそうですので、乳量の減少どころか免疫力が落ちて病気になることもありそうで心配です。

そこで思い切って大型扇風機やドライミストなどを導入しようかと考えています。とはいえコストの問題もあります。

いろいろと調べてみると、遮光カーテンも悪くなさそうです。

しかし、遮光カーテンは乳牛の体内リズムを乱したりしないか心配です。

また、最新の遮熱塗料は冷暖房の消費電力をかなり削減できると聞きました。

できるだけ低コストで効果的な暑さ対策の方法を知りたいです。
(静岡県・川口高司さん/仮名・50代)

加藤武市

加藤技術士事務所

乳牛の温度湿度指数に気を配り、グリセリン補給で暑熱ストレスを緩和しましょう

2021年8月9日に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書が発表されました。このIPCCとは国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織で、人為的な要因で起こる気候変化などを予測しています。

今回の発表によると、今後20年以内に産業革命前からの気温上昇が1.5度に達する可能性があると断定されています。

つまり、これから夏季は35度近くの暑熱環境となってしまい、乳牛は体調を崩して乳量低下が続くことが懸念されます。酪農経営のポイントは、長期的な暑熱対策により損失を防ぐこととなります。

乳牛の暑熱対策についてですが、福井県畜産試験場で同僚の和田卓也氏らが研究した報告があります。

まず「飼養環境」の改善は、熱を逃がす工夫が重要です。

具体的には換気扇や扇風機による送風、細霧装置、簡易ダクトによる冷気送風 、スプリンクラー等による屋根への散水、 屋根への石灰塗布 、植物や寒冷紗(かんれいしゃ)等の設置 、毛刈りの実施などが挙げられます。

「栄養管理」に関しては、熱を出さない工夫に気を配ります。飼料をエネルギー源に変換するプロセスであるルーメン発酵を安定させるために、飼料給与回数を増やしたり、給餌時間を調整することが大切です。

冷水の給与はもちろん、粗飼料(乾草)を短く切って与える心遣いを欠かさず、さらに重曹・ミネラル・高エネルギー飼料補給 (脂肪酸Ca・グリセリン)などを与えてやります。

この中でも夏場のグリセリン補給による乳牛の体温上昇を抑制する技術は、非常に効果的です。

高エネルギーのグリセリンを与えることで、乳牛体内の熱発生を抑えて暑熱ストレスを軽減させる方法です。これをもう少し掘り下げて説明します。

グリセリン(グリセロール)は無色透明のシロップ状の液体で、砂糖の半分の甘味があります。これを配合飼料に混ぜて与えます。乳牛は喜んで飼料を平らげますし、グリセリン自体も分解されやすいので、ルーメン発酵での熱発生量は少なくなります。

実際、夏場にもかかわらず、グリセリンを補給した乳牛の体温や呼吸数は低くなりました。

乳牛の暑熱ストレスの兆候を見える化する方法として、温度湿度指数(温度湿度指数(THI)=0.8×温度(°C)+0.01×湿度(%)×(温度(°C)-14.3)+46.3)というものがあります。

日常から温度湿度指数をチェックし、乳牛に強いストレスを及ぼされる数値とされている「72」あたりを下回らなくなったら、グリセリンの補給を開始してください。

だいたい3~4日ほどで効果が出てきます。気になる収益ですが、グリセリンを使うことで増収となる結果が出ています。グリセリン補給による暑熱ストレス軽減は、経営安定につながると考えられるわけです。

また、分娩や泌乳の開始に伴う生理的なストレスの大きい分娩前後3週間の移行期や、受胎率低下を防止するため 人工授精後の3~4日間に、期間限定で重点的に使うこともできます。

乳量減少が抑制されたことによる増収分と、グリセリンの資材費を加味した収益は、試験区の方が1日1頭当たり68円増加しました。

搾乳牛30頭規模で試算すると、暑熱期間中の増収は約25万円(30 頭×約 70円/頭・日×4カ月間)になります。

乳生産性の改善による増収に加え、暑熱ストレス軽減が乳牛の健康や繁殖に及ぼす効果を含めると、さらに経営安定につながると考えられます。コストの試算に関する図(文末)がありますので、参考にしてみてください。

乳牛の暑熱対策は、これが最も効果的という方法はないので、細霧装置、大型送風機の利用など、いろいろ応用してみることをおすすめします。

コストの試算


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