和牛の肥育牧場で2年前から働いているのですが、全酪連から依頼されて、試験的に9月初めに生まれた子牛1頭に強化哺育用ミルク(カーフトップEXブラック)をあげてみようということになりました。
しかし、いざ強化哺育用ミルクをあげ始めると2週齢(しゅうれい)くらいで飲まなくなり、下痢をするようになってしまったのです。
強化哺育用ミルクではなく生乳を飲んでいるほかの子牛は健康そのものなので、牛舎内が寒すぎるといったことはありません。
そこで生乳に切り替えると飲むようになり、下痢も収まるのですが、またミルクに戻すと翌日くらいにはまた下痢が始まり、ミルクも飲まなくなってしまいます。
産業医(獣医)に診てもらったところ、代表的な細菌感染の検査は陰性でしたが、私が「生乳に戻すと下痢をしなくなる」と伝えたところ「長く下痢が続くようなら生乳に戻したほうがいい」と言われました。
産業医は近所の牧場を日替わりで巡回していて、日によって診察する人も異なるので、診断にはちょっと不信感を抱いています。
子牛は現在23日齢で、強化哺育用ミルクは3リットルを1日に朝・夕2回与えています。
濃度はパッケージに書いてある通りで、スターターは一口食べるか食べないか程度。牧草は乾草をときどき食べています。
強化哺育を飲んでくれれば発育が良くなるそうなので、できれば続けてみたいのですが、無理はできません。
下痢をせずに強化哺育用ミルクを飲んでくれるようにするための改善点が知りたいです。
強化哺育用ミルクの濃度や含まれる脂肪分の量が問題かもしれないとか、飲ませるタイミングを変えたほうがいいとかいった、具体的なアドバイスをいただけないでしょうか。
(青森県・成田さん/仮名・30代)
安藤達哉
酪農学園大学 生産動物医療学分野 生産動物内科学ユニット 准教授
開始時は少なめから徐々に増やし、離乳に向けても徐々に減らしましょう
強化哺乳がうまく進まないとのご相談ですね。私の知見の中からお答えできればと思いますが、詳細がわからないため、一般論としてお聞きいただけると助かります。
強化哺乳は、最大哺乳量がやや多く設定されているため、給与量を適宜増減させていく必要があります。
具体的には、開始当初はやや少なめの哺乳量で始めて徐々に哺乳量を増加させていき、離乳に向けても2週間程度かけて徐々に哺乳量を減らして行くことが重要です。
まずこの移行期の増減に関して、質問者さんは対応されていたでしょうか。
また強化哺育は、標準的な哺乳プログラムと比較して、1日あたりの哺乳量が多くかつ哺乳日数が長く設定されています。
次に、子牛の個体差について。ひと口に「黒毛和種の子牛」といっても、体格にはそれぞれ違いがありますので、1日あたりの哺乳量が多すぎるといったことは無いでしょうか。
強化哺乳用ミルクの場合、高タンパクで低脂肪のミルクを子牛に給与することとなりますが、このこと自体が子牛にとってストレスになるケースもあることから、個体によっては給与を中止せざるを得ない場合もあると思います。
相談者のお話を拝見すると、感染性の腸炎は考えなくて良く、通常のミルクへ変更すると下痢が治るようですが、他の子牛への給与ではどのような感触なのでしょうか。
和牛の子牛では、カーフスターターの食い込みはホルスタインに比べて著しく遅く、生後50日齢を過ぎて固形飼料摂取が安定する傾向があるとも言われています。
そしてお示しの給与量は1日3リットル(2回で)とのことですが、メーカーの表によると3〜10週齢で1日2.5リットル(1日給与量1,000g)となっていますので、問題の子牛にはやや量が多いようです。
それが原因となって固形飼料の食い込みが減っている可能性もあります。もちろんこれは、下痢の原因にもなり得ます。
また哺乳する際には、ミルクの種類にかかわらず大切にしなければならない事があります。それは、できるだけいつも同じ「濃度・量・温度・時間」にすることです。
さらに、哺乳に使用する器具機械は清潔で乾燥している事が望ましいとも言われています。
これらのことを参考にして、再度、挑戦していただければ幸いです。
加藤武市
加藤技術士事務所
生後6時間以内に初乳を2リットル以上飲ませて母牛からの免疫を獲得しましょう
「強化哺育用ミルクの給与を始めて2週間で飲まなくなり、下痢をするようになった」という状況で、「強化哺育用ミルク(カーフトップEXブラック)を与えながら下痢をなくすことを主因とした対策」を行うことの考えを述べます。
和牛の子牛は一般的に、成牛と比べて免疫機能が低いために、細菌感染を起こしやすく、下痢や肺炎等も発症しやすいといわれています。
また子牛の血清免疫グロブリン(血清 Ig)濃度は、初乳Ig濃度よりも初乳の給与時間に大きく影響を受けます。
そんな子牛の下痢等を防止するために必要な、高濃度の移行抗体(母牛から子牛へと与えられる免疫物質)を得るためには、生後6時間以内に初乳を2リットル以上は給与する必要があります。
次に、福井県畜産試験場の報告によると、「発育向上が期待される甘草を哺育期に給与することにより、子牛の増体効果が見られる」とのことです。
甘草は生薬の一種で、ショ糖のおよそ150倍もの甘味を有するといわれているグリチルリチン酸を多く含み、薬のほかに甘味料としても用いられています。
甘草は薬剤ではないので牧場主でも獣医師を呼ぶことなく使用でき、甘味料として食品にも利用されているものですから、牛の嗜好的にも合っています。
繁殖農家および酪農家で分娩した和牛の子牛(雌)を生後 6~13日齢で導入し、直ちにカーフハッチで飼養(導入時の体重は39.6±5.3kg/頭)した例を見てみましょう。
試験期間は導入~約90日齢(離乳)、飼料は、代用乳(カーフトップ EX ブラック)、濃厚飼料(ニューメイクスター;全酪連)、粗飼料(チモシー乾草)を給与しました。
なお代用乳については、給与マニュアル(全酪連、東京)に沿って朝、夕2回定時給与。濃厚飼料と粗飼料については飽食としました。甘草(甘草 KANZOU 蜜;ファブリック大西、福岡県)の給与は、20~40日齢で1g×2回/日、70~90 日齢で2g×2回/日としました。
すると、甘草を給与したグループはしないグループと比較して濃厚飼料の食いつきが良くなり、飼料摂取量が上回りました。
特に70日齢以降には飼料摂取量の差が広がり、その結果、甘草を給与したグループの体重は給与しなかったグループをおおむね上回りました。
健康状態は、両グループとも下痢や肺炎といった疾病の発生はなく良好で、血液生化学検査成績にも差はみられませんでした。
腸内細菌叢を検査してみると、Bacteroides菌群の割合の変化においては、甘草を給与したグループでは全頭(4頭)が増加し、給与しなかったグループは4頭のうち2頭は増加したものの、1頭は変化せず、1頭は減少しました。
なお、甘草の主成分であるグリチルリチン酸はヒトの肝機能の向上作用があるとされていますが、牛においても肝臓における糖新生が肝機能の改善によって促進されることが報告されていることから、和牛の子牛に甘草を給与すると肝機能の改善によって生産性の向上が期待できるとされています。