南九州で家族で果樹園を営んでいます。
現在はパイナップルをメインにしていますが、両親から引き継いだあと、マンゴーのハウス栽培を始め、事業を広げていきたいと考えています。
おいしいマンゴーを育てるにはどうすれば良いか調べていたところ、温度管理が重要だと思いました。
そこで、どの程度の温度を保つ必要があるのか、冬場の寒さをどのように乗り越えればいいのかについて教えてください。
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前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
マンゴー栽培ではハウス内の温度を20~30℃の熱帯気候にするのが理想
マンゴーの栽培適温
まず初めにマンゴーの栽培条件の基礎知識を知っておきましょう。
マンゴー栽培に最適な温度帯
マンゴーは熱帯フルーツです。
日本で育てられている品種はほぼ「アーウィン種」で、別名「アップルマンゴー」とも呼ばれます。
ここからは当園でメインに栽培しているアーウィン種の栽培について説明させていただきます。
発芽の時期、開花時期、果実肥大期などで微妙に適温は変わりますが、基本的にはマンゴーが好む温度帯は「20~30℃」で、果実が育つには最低「20℃」以上が必要です。
冬は10~15℃以上を確保
マンゴー栽培では、冬でも「10℃以下」にならない環境が理想的です。
樹木の耐寒温度は「5~6℃」ですが、10℃を下回ると樹体が弱ります。また霜に当たるような低温は絶対に避けなければなりません。
マンゴーは熱帯フルーツ
マンゴーの原産地は南アジアで、今では世界中の熱帯地域で広く栽培されています。
日本には明治時代に伝来していましたが、なかなか栽培が普及しませんでした。
1970年代に入ってから沖縄のハウス栽培で生産が安定化し、そこから日本中でマンゴーの存在が知られるようになったそうです。
マンゴーの栽培適温は「20~30℃」
マンゴーの栽培適温は「20~30℃」です。
南九州だと冬場の温度を考えるとハウス栽培が望ましいと思います。
当園の場合、冬場は10℃程度で最低温度を管理します。
当園でのハウス内の最低温度は発芽時期には15℃程度、花芽が伸びてくる頃は18℃、開花時期が近づくと20℃、開花時期には22℃以上と、徐々に温度を上げていきます。
ハウス内なので、夏場は40℃近くの気温になる場合もあります。
30℃を超える高温や強い日光は「日焼け果」の原因になるなど、果実に悪影響を及ぼします。
遮光ネットを張ったり、換気扇を取り付けたり、日よけの傘(ブドウで使われているものなど)を付けたり、暑さ対策も不可欠です。
ハウス栽培の方法や露地栽培の北限についてはこちらをご覧ください
「マンゴーをハウス栽培する際の温度管理やスケジュールを学びたい」
「国内でのマンゴーの露地栽培の北限はどこですか?」
マンゴーハウスの温度管理方法
次はマンゴーを育てる施設の温度管理方法を説明しましょう。
加温装置は必須
マンゴーの栽培施設には加温装置を設置しましょう。
なぜなら最低でも10℃以上の環境を用意しなければならないからです。
10℃に満たないと木が弱り、霜に当たると最悪の場合枯死してしまいます。
国内では、加温装置なしでマンゴーは育てられないと考えてください。
冬越しの方法
マンゴーは実を付けるまで接ぎ木苗でも最低3年程度を要するため、収穫までには寒い季節を乗り越えなければなりません。
また、果実を付け始めた後も、冬場の寒い時期に果樹をどう管理するかは非常に重要なポイントです。
ビニールの被覆を2重にするなども有効です。当園ではビニール被覆を3重で行っています。
ハウスの大きさや加温コストにも注意
ハウスの高さや大きさが、温度や栽培環境を左右することがあります。
一般的に、高さのある大きなハウスは空気の循環が良く、内部の温度を均等に管理できるという利点がある反面、加温には多くのエネルギーが必要になります。
対照的に高さの低い小さなハウスだと加温は効率的ですが、温度の偏りが生じやすくなります。
夏場の温度が上がりやすいという難点もあります。
マンゴー栽培を始めるには、ハウスの設計や燃料コストの試算も十分に考慮する必要があります。
温泉や地熱、廃熱などの利用例
最近は沖縄や南九州以外でもマンゴーの栽培実績が増えています。
北海道では温泉熱を活用して栽培に成功しており、これにならう形で工場廃熱での実験的栽培に取り組む事例があります。
これらのエネルギーは化石燃料の使用を減らし、環境負荷も軽減します。
さらに、地域内での資源を再利用する策として注目を集めています。
栽培する土地の最低気温によって、プラスアルファで上げる温度は変わりますので、どういった加温方法が良いのか、よく検討されると良いでしょう。
ちなみに当園は瀬戸内と言いつつ、徳島との県境にあるので冬場はマイナスの温度帯になる日が多く、加温域が広い為、化石燃料を使用しています。
またハウスの大きさにより使用する化石燃料の種類を変えています。
マンゴーの温度管理に特に気をつけたい時期
マンゴーの開花や受粉の時期など生長過程で適温は変わります。温度管理に気をつけましょう。
マンゴー(アーウィン種)は花が咲いてから約120日で収穫になります。
収穫時期をいつにするか?で加温開始時期を決めると良いでしょう。
花芽分化を促進するには
マンゴーのアーウィン種は10℃程度の低温にあてること、灌水量を減らし土壌を乾燥気味にすることで、花芽分化が促進されます。
花芽分化が上手く進まないと、花や果実が付きません。
分化促進のため、この頃は施設内を「最低10℃、最高20℃まで」になるようこまめに温度調整をしてください。
開花時期の温度は受粉を担う虫が活動しやすくする温度帯です
マンゴーは虫媒花です。
受粉によって果実を付けるためには、ミツバチやハエなど虫をポリネーターとして利用します。
よってこの時期は、虫が活動しやすい温度帯である「20~30℃」を維持しましょう。
温度管理と関連する栽培トラブル
最後に、温度管理に起因するマンゴーの栽培トラブルについて説明します。
ヤニ果
内部から樹脂のような液体が分泌される果実を「ヤニ果」と呼びます。
マンゴーのヤニ果発生には、極端な高温・低温のほか、急激な温度変化が影響します。あと湿度過多も原因の一つです。
研究によると、花実肥大期の施設内の最低気温を23~24℃に保つと、ヤニ果の発生が抑えられます。
昼夜の温度差を小さくする管理するのがポイントです。
梅雨時期の湿気が多い時期には少し高めに温度を設定し、送風機などでハウス内に空気の流れを作るのも有効です。
裂果
果実が割れる「裂果」現象にはさまざまな原因が考えられます。
直接的な要因の1つは、果実が大きくなる時期に土壌水分量が急激に増加することです。
ハウス内であれば、決まった時間帯に適切な量を灌水すると良いでしょう。
晴れの日、曇天時などで土壌の乾燥具合は変わりますので、土の状態、樹の状態を見ながら灌水してあげてください。
一方、温度の急激な変化で裂果が起こることもあります。
朝晩と日中のハウス内の温度差をできるだけ少なくするように心がけましょう。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。