底びき網の漁船に乗っている漁師ですが、転職することになり、定置網漁船に乗ろうかと考えています。
定置網を検討している理由としては、サバに興味があるからで、サバの養殖をやっている友人から、サバの需要が増えているという話を聞き、興味を持ったからです。
養殖の経験はないので、漁船でサバを獲るのであれば定置網かまき網かなと思ったのですが、どうせなら環境にも優しいと言われる定置網にしようかなと思っています。
しかし、定置網の経験はもちろん、天然サバの需要についても良くわかっていません。
その辺りのことを詳しく教えてもらえないでしょうか。
石戸谷 博範
海と定置網の研究室
サバの定置網漁は主に大型定置網で行い、漁獲量も上昇傾向です
サバの定置網漁の漁獲量
2014~2019年におけるサバの全体漁獲量と定置網漁獲量は以下のように推移しています。
年
全体漁獲量概算(t)
定置網漁獲量(t)
2014年
482,000
38,803
2015年
530,000
50,099
2016年
507,000
44,877
2017年
519,000
33,724
2018年
545,000
40,180
2019年
452,000
60,200
全体の漁獲量は徐々に下降しているものの、定置網漁におけるサバの漁獲量は全体的に上昇傾向にあります。
マサバの定置網の特徴
日本で漁獲されているサバは、主に「マサバ」と「ゴマサバ」です。
マサバは「ヒラサバ」とも呼ばれます。
マサバの定置網漁は秋にピークを迎え、日本近海では2ヵ所で行われています。
1つが太平洋南部から太平洋を北上して千島列島沖合の太平洋地域、もう1つが東シナ海南部から日本海北部に渡ります。
太平洋地域のマサバは日本海地域と比較して、漁獲量が多くてサイズが大きい傾向があります。
マサバの太平洋地域(太平洋系群)での漁獲量には大きな波があります。
国立研究開発法人水産研究・教育機構資源評価によると、1970年代後半には100万t以上ありましたが、1990年ごろには大きく落ち込みました。
そこを底にして小さな波がありながら2021年には約18.6万tになっています。
一方で、日本海地域(対馬暖流系群)の漁獲量は大きな波はなく、緩やかな右肩下がりの傾向があります。
国立研究開発法人水産研究・教育機構資源評価によると、2021年は21.3万tの漁獲量になっています。
ゴマサバの定置網の特徴
ゴマサバは、断面が円に近いのため「マルサバ」とも呼ばれています。
ゴマサバは、マサバよりも暖かい場所を好む傾向があり、太平洋南部や東シナ海、日本海でも南部地域に生息しています。
ゴマサバの定置網漁は6月頃にピークを迎えます。
国立研究開発法人水産研究・教育機構資源評価によると、ゴマサバの漁獲量は、2005~2011年には、年間15~20万tの漁獲量がありましたが、それ以降は急減し、2021年には2.7万tほどとなっています
サバの定置網漁の方法とは?
定置網漁は、一定の場所に網を張り、その網に入りこむサバを漁獲します。
網は回遊するサバの通り道に岸から沖に向かって網を張り、サバが箱網に入るのを待ちます。
箱網に入ったサバは、網越しという作業によって漁獲します。
網越しは、箱網に入ったサバを1箇所に追い込み、タモ網ですくって水揚げします。
この作業は、小さい網だと数人、そして大きい網の場合は30人以上で行います。
サバの定置網漁のメリット・デメリット
サバの定置網漁のメリット
サバの定置網漁には、以下のようなメリットがあります。
・他の漁法に比べて燃料費が少なく済む
定置網漁は、網を岸から数百メートル~5km以内といった近海に張ることが多く、移動距離が極めて短いのが特徴です。
そのため遠洋漁業や、サバ漁で最も盛んな巻き網漁と比較して燃料コストが少なく済みます。
・乱獲の心配が少ない
定置網漁は、網目の大きさで獲りたいサバの大きさを調整できます。
そのため、小さなサバは逃げられる大きさの網目にしておけば、成長しきっていないサバを逃がし、乱獲のリスクをおさえられます。
サバの定置網漁のデメリット
・サバ以外の魚も獲れてしまうことがある
定置網漁では、サバ漁として定置網を張ってもサバ以外の魚が獲れてしまう場合があります。
網に入った魚の種類によっては、サバに傷がついたり、悪影響を及ぼすケースもあります。
・自然災害などにより網が破損する心配がある
定置網は海上に設置した網により漁獲する漁法のため、荒天時には網が壊れたり流されてしまう可能性があります。
網が破損した場合、復旧するために多額の修復費がかかり、修復中の操業も難しくなります。
また、台風が近づくと、網が破損しないように網揚げ作業を行い、台風の通過後には網入れ作業を行う必要があり、時間や費用がかかってしまいます。
このお悩みの監修者
石戸谷 博範
海と定置網の研究室
定置網漁業学の専門家。2009年水産海洋学会より「相模湾における急潮と定置網漁業防災対策に関する研究」で宇田賞を授与。定置網漁業に関する国、地方、業界の各委員を務め、日本沿岸各地の地域活性化に取り組んでいる。博士(東京大学農学)。