地元企業に勤め、定年時に就農しました。80代後半になる高齢の父から引き継いで、今年から桃とブドウを栽培しております。
冬場は剪定作業が続きます。父が長年使ってきた剪定バサミを託され、現在このハサミを使って特訓中です。
ところが、このハサミがどうも私の手にはしっくりきません。
父は手がでかく、使っているハサミの握り部分が大きすぎるのか、腕が疲れ、特に手の親指の付け根あたりが痛くなってきます。
そのため、この剪定バサミを使うのは諦めて、新しい選定バサミを購入しようと思っています。
最近は電動の剪定ハサミを使う農家も多いですが、父に言わせると手動でなければダメだといいます。
初心者でも疲れずに作業がはかどる、剪定バサミを選ぶポイントを教えてください。
(山梨県・中村淳一さん/仮名・60代)
橋本哲弥
橋本梨園
疲れにくく、作業効率が良い剪定バサミを選ぶには、必ず現物に触って確認を!
剪定バサミは数多のメーカーから沢山の種類が販売されています。
ご質問にあるとおり、自分に合わない大きさのハサミを使うと無駄な疲れが生じてしまい、作業効率も落ちて、ひいてはケガに繋がる恐れもあります。
自分に合う剪定バサミを見つけるというのは、仕事のパートナー探しと言ってもよく、果樹農家の永遠のテーマかもしれません。
とはいえ、闇雲に探しても相性の良いハサミと出会うことはできません。
今回は「疲れにくい」「作業性」に絞り、最低限抑えておきたい選び方のポイントを紹介します。
なお電動バサミについてですが、栽培面積が大きい方には使用をおすすめしています。
ただ使いどころは選ぶ必要があり、そのあたりは後述いたします。
剪定バサミの選び方
1、自分の手に合ったサイズを選ぶ
まずはお父さまが使われていたサイズ(刃先から持ち手の端までの長さ)を測り、一つ下のサイズを選んでみてはいかがでしょうか。
剪定バサミは一般的に7インチ(180cm)、8インチ(200cm)、9インチ(228cm)の3種類の大きさがあります。大きさは商品名に数字で記載されていたり、ラベルや箱に書かれています(表記がない場合はお店の方に確認してみてください)。
2、軽いものを選ぶ
いくら切れ味がよくても重ければ、連続で剪定作業すると手が疲れてしまいます。
上質な鋼を用いた切れ味がよい重厚感のあるハサミもありますが、切れ味こそ劣りますが、ステンレスなどを用いた軽量のハサミもあります。
一長一短ですが、もし今お使いのハサミの重さが気になるなら、軽量をうたった製品を一度手に取ってみてもいいかもしれません。
3、切れ味の良いものを選ぶ
良く切れるハサミは力を入れずに切れるため、手への負荷を減らしてくれます。
切れ味の良し悪しを決めるうえで、重要なのは刃の構造です。刃の開きや刃同士のすり合わせ(アサリ)の均質さなどが関係しています。
切れ味の良い刃の構造については、私がよく利用している「刃物のじゅうみ」さんの記事がわかりやすいので、参考にしてみてください。
4、形状(型)で選ぶ
A型、B型、O型、津軽型、アンビル型など、さまざまな形の剪定バサミがあり、持ち手の形状や刃の角度などがそれぞれ異なります。
ハサミの大きさが自分の手に合っていても、切れ味がよくても、何となく手に馴染まないということがあります。その場合は形状を変えてみるのも一つの手でしょう。
5、手首や肘への軽減負荷で選ぶ
剪定バサミには手への負荷を軽減するため、さまざまな工夫がされています。
例えば、
・V字バネではなく虫バネを採用している
・指をかける方の持ち手が回転する
・持ち手がシリコン製のグリップになっている
・電動のオプション(アタッチメント)が付いているなどのポイントがあります。
腱鞘炎や手根管症候群などで苦しんでいる方は検討してみてもよいでしょう。
ただ、ここまで読んで気づかれたかもしれませんが、正直なところ、剪定バサミとの相性は現物に触れてみないとわからないことが多いです。
そのため、上記のポイントを押さえたうえで、農業系の展示会や製鋏所の売店などで実物に触れて、実演させてもらうことをおすすめします。
一番手っ取り早いのは、剪定講習会などで同業者が愛用しているものを使わせてもらい、使用感を聞いてみることです。
長く使っている方の意見は大変貴重です。同じような体格や年齢の人だとなお良いでしょう。
3万円前後のグレードの高いハサミを使っている方もいますが、先ずは同じメーカーのものや、形状が似ている安価なタイプをおすすめします。
なぜなら、その場では相性良く感じても、長く使っていると「やっぱり合わないかも…」と違和感を覚えることがあるためです。
高価なものをいきなり買って失敗するより、先ずは廉価版でのお試しを推奨します。
6、電動バサミは仕上げ剪定以外で使う
お父様が「手動でなければダメ」という理由はいくつか考えられますが、栽培面で一般的に言われる理由は「切り口が汚い(丁寧な作業ができない)」ためです。
切断面が手動のハサミやのこぎりで切った時のようにきれいにならず、ささくれのような残りカスができてしまいます。
また徒長枝などを切る際に「ほぞ」が残りやすく、その部分から余分な新梢が発生してしまうのもネックです。
手動のように繊細な動作ができず、正確に狙った位置で切断ができない機種も多い印象です。丁寧に仕上げをしたい、後々の余計な仕事を増やしたくないという方は電動バサミを嫌う傾向があります。
ただ物は考えようで、「ならば大雑把な作業でだけ用いればいい」ともいえます。例えば秋の枝抜きや粗剪定です。
枝抜きする側枝や徒長枝の基部はのこぎりで処理して、櫛状になっている側枝や長大な徒長枝を処分する工程で用いれば良いのです。
そして骨格枝・予備枝・側枝先端の切り返しは手動のハサミで行って、丁寧に仕上げていく。これならば求められていた「丁寧さ」が担保できます。
「豊水」や「新高」などといった樹勢の強い品種はたくさん枝が吹くので枝の処理が本当に大変です。特に栽培面積の大きい方は少しでも無くしたい仕事ですよね。
丁寧に仕上げる必要のない捨てる枝の処分は電動バサミで十分。手への負荷も軽減できるため、腱鞘炎などへの対策にも効果的です。
電動と手動を使い分けるのが賢い選択だと思います。
こちらもいろいろと種類があり、各メーカーが今も普及に勤しんでいます。
軽量で安価なコードレスタイプの電動バサミも出回っていますので、地元の農機具店などに問い合わせて試用してみることをおすすめします。