近年はアニマルウェルフェアの考え方の広がりもあって、これまでの飼育方法がいろいろと見直されてきています。
たとえば乳牛では、乳質を良くするために断尾が推奨された時期もあったそうですが、最近は断尾が乳質に影響を及ぼさないという研究結果が報告され、尻尾は切らなくてよいとされるようになったと聞きます。
むしろ尻尾で体に付くハエやアブ、蚊などを追い払っているので、尻尾を残すことの方が牛の健康にとってもメリットが大きいとされてきているようです。
私が放牧飼育するヒツジも生後2週間以内に、尾の根元に硬いゴムバンドをはめて断尾しています。
ヒツジの場合には尻尾に糞が付いて衛生管理上問題があること、またメスの場合は繁殖時に交配率が低くなるということが理由のようです。
ただ、飼育の経験上からすると、特に夏場は足元や体にハエや蚊などが付くので、それを追い払うのに尻尾は必要な気もします。
アニマルウェルフェアの観点も含めて考えた場合、ヒツジの尻尾は切った方がよいのでしょうか。
(長野県・中島洋介さん/仮名・30代)
一條俊浩
岩手大学 農学部 共同獣医学科 准教授
羊に快適な生活を与えることが本来のアニマルウェルフェア。獣医師に依頼して「断尾術」の検討を
羊の断尾の目的は、その体毛を利用することから糞便や排尿による体毛の汚れを予防することにあります。
今回のご相談はどのような目的で羊を飼われているのか不明ですが、やはり体毛を利用するのであれば断尾が必要と考えられます。
羊を飼う目的として、いわゆる愛玩動物として飼う場合や雑草の除去を目的に飼う場合や観光農場で観賞用に飼う場合もあります。
これらの場合でも体毛の汚れが気になる場合や、とくにメスは尿でも汚れが多く発生するため、メスだけ断尾を勧めている農場もあります。
これに関して最近の「アニマルウェルフェア」の問題ですが、これには2つの考え方があります。
主にヨーロッパが考慮する規定として、アニマルウェルフェアを考慮していない農畜産物は購入しない、その対策を十分にされた生産物は少々高価でも購入すべきとした消費者サイドの考え方があります。
これに対して、動物の快適性を考慮することによってより生産性が上昇し、安心と安全につながるといった北米やイスラエルといった生産性を重視する国々を中心とした「アニマルコンフォート」を重視した考え方で、これは主に生産者サイドの考え方です。
日本も北米型に近い考えですが、最近では日本型のアニマルウエルフェアを考えるべきではないかとの議論が出てきています。
これらの考え方は食品のHACCPにもつながる話なので、別の機会に解説するのが良いかもしれません。
今回のご相談では羊の飼養目的が重要となりますが、従来のアニマルウエルフェアを考慮するのであれば、断尾もそうですが、定期的な毛刈りの実施(特に夏場)や寄生虫(定期的な駆虫が必要です)の予防がきちんと実施されていることが重要です。
羊を健康に飼うこと、それにより羊に快適な生活を寄与していることが本来のアニマルウェルフェアと考えます。
また、断尾の方法にしても、これまでは生後間もなく輪ゴムで駆血して自然脱落を待つ方法が安価でいいのかもしれませんが、獣医師に依頼して、通常の麻酔もしくは鎮静下で手術を行ういわゆる「断尾術」を選択する方法を検討すべきと思います。