新潟県で、農業法人を経営しています。
米、自然薯(じねんじょ)、サツマイモ、食用菊など幅広い野菜を生産しています。
先日、新聞を読んでいたところ「農業水産物の輸出拡大に向けた農業支援ファンドの投資を円滑にする改正特別措置法が成立した」という記事を見ました。
記事では、農業ファンドに対し投資の緩和が行われるということで、現在行われている農業法人への投資以外にも、食品事業者や流通業も対象になると書かれていました。
恥ずかしながら、これが農業者、特に農業法人にとって、プラスの影響になるのか、マイナスの影響になるのか、イマイチわかりません。詳しい方に、この法改正は、農業法人や農業者にどう関わるのか、そしてプラスになるのかをお聞きしたいです。
(新潟県・三田さん/仮名・50代)
藤野直人
株式会社クロスエイジ 代表取締役
農業法人には直接の影響なし。ただ今後はチャンスをつかむ工夫を
農業法人に対して影響はないでしょう。かみ砕いて説明すると、農業法人だけでは投資対象になる案件がなさ過ぎるので、対象を「林業、漁業、それらを支える事業者」にも拡大します、ということです。
農業は補助金漬けのイメージがあったので、当初は「やる気のある農業法人・農業者に融資(お金を貸すこと)をしていこう」という流れがあったためです。
しかし、融資だけだと返済の問題があり、躊躇してしまう可能性も考えられます。さらに、与信枠(貸し出す上限額)がない状況は話が進みません。
そのため、投資が必要だということで、2016年に「農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法」が成立し、いくつかの農業ファンド(国の資金で運営される「日本政策金融公庫」と、民間の金融機関が共同出資する投資ファンド)が設立されました。
つまり「うまくいったらお金をリターン(分配)してください、失敗したら返さなくてもいいですよ、リスク承知で投資したので」ということです。
結果、何が起こったかというと、うまくいく案件がなかなか出ませんでした。加えて、本来は損失を覚悟した上で挑戦的な農業法人へ出資してもらうはずの制度が、確実にうまく行きそうなプランを求められるようになりました。
すると、農業法人側も「そこまで厳しく言われるなら、融資か自己資本でいい」と思うようになります。うまく行く可能性が見えているなら、時間や労力をかけて「出資」という選択肢を選ばなくても、金融機関から借りた方が金利も安いため、ファンドを活用する必要性はなくなります。
そこで、今後は「漁業も林業も、あるいは幅広く農林水産業を支える事業者にも投資します」ということになったわけです。
これからの農業経営者、農業法人の社長には、「国や政府が用意した事業拡大、発展のチャンスをうまく活用する」「補助金や融資の活用だけでなく、投資を呼び込むような魅力的な一次産業を展開する」「全体のビジネスをデザインできる参謀を身近に置く」ことが求められます。
「地域でうまく行った6次産業化のモデルを全国に展開する」「世界に輸出するための加工拠点をつくる」など、挑戦的なプロジェクトと、農業ファンドの出資先緩和の動きがうまく結びつくといいですね。
大場寿人
三宅坂法律事務所 パートナー
農業法人への影響は限定的。他業種との連携を後押しする制度になります
2021年4月21日に「農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法」を改正する法律案が参議院本会議で可決、成立しました。この改正法は2021年秋までに施行されます。
今回の特措法改正のうち特に重要なのは、「日本の農林漁業や食品産業の輸出拡大を目指すために、特措法に基づく投資対象を、既存の農業法人に限定せず、輸出のための生産基盤構築・施設整備や、IT化による生産性向上に取り組む農業法人以外の事業者を投資対象に含める」という点です。
そのため、今回の特措法改正では、相談者さんのような農業法人への投資拡大効果は限定的であると考えられます。
一方、農業ビジネスの周辺事業者、特にコールドチェーン(産地から小売事業者までの低温輸送)やスマート農業(ロボットや情報通信技術を使った農業)分野などへの投資拡大効果が期待されます。
これまでの日本の農業政策は、農業生産へ他業種からの参入を制限しつつ、生産者起点の6次産業化による加工・販売業への展開を推奨する動きが中心でしたが、今回の特措法の改正は、むしろ生産者以外の他業種による農業ビジネスへの参入を後押しするものと言えます。
既存の生産者は、今後新たに農業ビジネスへ参入する他業種との連携について、より一層の関心を持つ必要があると考えます。