これまで果菜類の作物を中心に育ててきましたが、新しく葉茎菜類の栽培もはじめてみようかと考えています。
まだ農家になって数年なので、知識や経験は浅い状況ですが、新しい作物にも挑戦しようと思い、まずは長ネギを栽培してみようと思います。
しかし、病害についての知識はまったくない状態で、近隣の農家さんから「軟腐病に気をつけな」と言われましたが、どう対処すればいいのかわかりません。
そもそも、ネギが軟腐病になるとどのような症状が出るのでしょうか?また、軟腐病になってしまった場合の具体的な対策方法を知っておきたいです。
李 哲揆
データサイエンティスト
ネギは育苗中ではなく収穫時期に近づいた成株が軟腐病になりやすいです
ネギ軟腐病とは
ネギ軟腐病の主な症状は次の通りです。
地際部に発生した場合
葉っぱの展開部分に水浸状の斑点が生じる。その後、内部から腐敗していき、外の葉っぱから徐々に軟化する。やがて全体を腐敗させて枯死させてしまう。
地下部に発生した場合
茎盤基の一部が黒ずんで茶色がかった色に変色する。地上部は生育不良となり、やがて全体を腐敗させてしまう。
地際部に発生した場合と、地下部に発生した場合で若干症状が異なります。しかし、最終的に全体を腐敗させてしまうという点に関しては共通です。
腐敗した部分からは、軟腐病特有の悪臭を放ちます。
1つの株で発生すると、圃場全体のネギに蔓延する恐れがあるため、適切な対処をしていかなくてはいけません。
ネギ軟腐病の伝染方法と発生条件
ネギ軟腐病は、特有の発生条件と伝染方法があります。特性を把握して、軟腐病対策につなげていくことが重要です。
伝染方法
ネギ軟腐病の伝染方法は次の通りです。
・基本的には土壌中の水を伝って伝染する
・かん水や降雨の際に病原菌が土とともに跳ね上がることで周囲に広がる
・農作業や食害昆虫が付けた作物の傷口に感染する
・降雨やかん水などによって、軟腐病に感染した株から健全株に蔓延する
・ネギを抜き取った後でも、軟腐病菌は雑草の根周辺に存在し続け、汚染された圃場で再度ネギ栽培を行うと、再び感染が広がる
ネギ軟腐病は基本的には土壌伝染をします。
ネギの葉の表面にはワックスがあるため軟腐病菌は侵入しにくいのですが、食害昆虫や農作業中につけてしまった傷口から感染する場合もあります。
また、過去に軟腐病が出た農場で再びネギ栽培を始めると、土壌中に残存菌により再発させてしまう恐れもあるので、連作を行う際には十分注意しなくてはいけません。
発生条件
ネギ軟腐病の発生条件は次の通りです。
・初夏から初秋にかけての長雨や高温の時期
・排水基盤が整備されていない水田転換畑や低湿地
・根腐萎凋病や萎凋病になったネギがある農場
ネギ軟腐病は、育苗中のネギに感染することはほとんどなく、5~10月期といった収穫時期の近い成株が感染しやすい特徴があります。
また、病原菌は水分を好むため、多湿になりやすい土壌や長雨の時期になると発生しやすくなります。
ネギ軟腐病の対策方法
ネギ軟腐病は、耕種的防除や薬剤で対策することが一般的です。
・耕種的防除:栽培方法や農場の環境改善
・薬剤防除:農薬を使った防除方法
環境や育てる条件によって、それぞれ適切な対策を行う必要があります。
耕種的防除法
ネギ軟腐病は、発生してからでは防除できないので、次のような耕種的防除を事前に行うことが重要です。
・畑が多湿にならないように、排水の徹底に努める
・特に高温期の追肥や土寄せは発病を助長するので控える
・窒素肥料の多用で生育が軟弱になる恐れがあるため、適正な施肥をする
・汚染畑での被害を防ぐために、強い抵抗性を持つ非宿主植物との輪作を行う
また発生株は、周辺にある健全株ごと抜き取って圃場外で焼却するなど適切に処分しましょう
薬剤防除
ネギ軟腐病は、感染の原因となる食害昆虫の駆除や土壌消毒で防げるケースもあります。
いずれにせよ、農薬での防除となりますが、ネギに適した農薬とそうでない農薬があるので、適切な製品の選択と散布方法で対策しましょう。
軟腐病対策に効果的な農薬についてはこちらをご覧ください
「軟腐病対策を行ううえで必要な農薬について知りたい」
このお悩みの監修者
李 哲揆
データサイエンティスト
名古屋大学大学院生命農学研究科にて博士(農学)を取得。東北大学、東京大学、理化学研究所などを経て、2018年からは東京農工大学生物応用システム科学府にて助教を務める。主な研究テーマは土壌微生物を用いた環境に優しい農法の開発。2021年4月から民間企業でデータサイエンティストとして働く。