ニュースやインターネットなどで「スマート漁業」という言葉を目にしますが、スマート漁業とはどういうものなのでしょうか?
定置網漁船に乗りまだ数年の漁師ですが、いつか独り立ちをしたいと考えています。
親方や先輩はこれまでの知識や経験に基づいて漁をしていますが、スマート漁業では、そういったベテランの知識をデータにすることで、効率的に漁業ができると聞きました。
実際にどういった技術を使って行う漁業なのか、教えていただけないでしょうか?
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麓 貴光
株式会社水土舎 代表取締役
スマート漁業はデータを取得・活用することで効率化や省力化を図る新しい漁業です
スマート漁業とは?
日本では古くから漁業が盛んでした。
しかし、最近では後継者不足が深刻で、漁師の数は減り続けています。
さらに海での事故や、天候や環境の変化により経営が安定しないという課題もあります。
そこで、IICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)技術を利用し、漁場や養殖場などのデータを取得することで、効率化や省力化を図ることができる、新しい漁法です。
「経験や勘」に頼っていた漁業に、デジタルの力を合わせることで、さまざまな問題を解決することが期待されています。
スマート漁業でできること
燃料費の削減
異常気象などの影響で、漁に出ても「出戻り」が発生し、余分なコストが発生しています。
そこで、水温や潮流などをリアルタイムに確認できる技術や、スマートブイやドローンを使い、燃費を削減できるシステムが開発されています。
また、沖合漁業や遠洋漁業においても「最適な航路を選ぶ」ための技術開発が進んでいます。
漁港から目的地まで最短距離で向かうことができるので、燃料費を抑えることが可能です。
経験不足の解消
若い世代の漁師が不足している影響で、これまで日本の漁業を支えてきたベテラン漁師の知識や経験を、次世代に引き継ぐことができないという問題があります。
そこで、ベテラン漁師の勘と経験をデータ化し、可視化するためのシステムが開発されています。
こういった技術を使うことで、若い漁師でもより早く一人前になり、独立することが可能になります。
水産資源の管理
資源の減少は漁業にとって大きな課題の一つです。異常気象や乱獲などの影響で資源量は変化しています。
そのため、どこで、どの魚を、どれくらいの量漁獲していいのかを漁師たちが把握する必要があるのです。
こういった課題を解決するために、漁船に取り付けたGPS(位置情報)や操業日誌のデータを共有し、同じ地域の漁師たちで資源管理をするためのシステムが開発されています。
スマート漁業で解決できる課題についてはこちらをご覧ください
「スマート漁業で漁師の育成や資源管理などの課題を解決できるの?」
スマート漁業の事例
ICT技術
資源管理のために、魚の種類ごとに漁獲量の上限を定めた「TAC(漁獲可能量)制度」があります。
TAC制度を運用するには、魚種ごとの漁獲量や海の状態を正しく把握しなければいけません。
そのために、ICT(情報通信技術)の活用が期待されています。
水温や塩分を測定できる装置を船に付け、観測データを研究機関へ送信しています。
また、海洋に設置してデータを収集するスマートブイの開発にも取り組んでいます。
こうした技術の開発が進むことで、「海の見える化」が進み、適正な漁獲量や海洋状況の把握ができるようになります。
ウェザールーティング
外洋に出る際、重要になるのが航路です。これまでの遠洋漁業では、ベテラン乗組員の経験や知識などにより、航路を決定していました。
そこで、商船で利用されていた「ウェザールーティング(最適航路選定)」を、漁業にも導入することで、安全で効率的な航路を選定できるようになりました。
効率的な航路で漁を行えるので、燃費の削減にも役立ちます。
海上ブロードバンド
海の上では、インターネット環境は整備がされているとはいえません。
また、衛星を利用した通信では、通信速度が遅く、通信料金も高くなってしまう場合があります。
もし海上で高速通信ができれば、リアルタイムで漁場を見つけたり、魚をその場で販売することが可能になります。
また船上にいる漁師が陸にいる家族とコミュニケーションを取れるようになるため、労働環境の改善や人材不足の解消にもつながります。
スマート漁業の事例についてはこちらをご覧ください
「スマート漁業ではどういった事例がありますか?」
スマート漁業の課題
人材の不足
スマート漁業には、デジタル機器を操作する人材が必要になります。
ベテラン漁師さんなど、普段デジタル機器をあまり使用しない人が使うには、サポートが必要です。
しかし、漁師として戦力になり、デジタルの経験がある人材はなかなかいません。
そういった人材を育成したり、外部から連れてくる必要があるのです。
データの扱い方が変わる
スマート漁業の機器を導入すると、これまで記録してきた情報を、機械が取得していくことになります。
そのため、紙で保管することに慣れている漁師さんにとって、慣れるまで使い勝手が悪くなります。
また、機器の取り扱いに慣れるにも時間がかかります。
人手が不足していたり、手が回らないという漁師さんにとっては、作業時間が増えてしまう可能性もあります。
導入費用が高い
スマート漁業を導入するには、多額の初期投資が必要になります。
長い目で見れば、人件費や燃料費の削減などが期待できるものの、導入初期はコストが増大してしまいます。
しかし、今後スマート漁業の技術開発が進んでいけば、「誰でも簡単に操作できるシステム」や「低コストで導入できる機器」が誕生するかもしれません。
スマート漁業のデメリットについてはこちらをご覧ください
「スマート漁業にデメリットはありますか?」
このお悩みの監修者
麓 貴光
株式会社水土舎 代表取締役
株式会社水土舎 代表取締役。「食と環境」をテーマに、水産物のマーケティング支援や販路拡大、事業活性化などのコンサルティングを行なっている。