私たちの集落はもともと湿田が多いうえに、構造改善事業で暗渠(あんきょ)の排水工事に不備があったりして、毎年のように田んぼでコンバインが泥にはまります。
米の収量も地域の平均以下で、今後とも価格が下がり続けるだろうと思うと、米づくりを続けることに限界を感じています。
かといって、湿田なので畑地化して麦や大豆、野菜などを作付けするわけにもいかず、湿田にふさわしい転作作物を探していました。
そんなおりに、たまたま知り合いから、湿田に向く転作作物として水生作物のマコモタケを紹介されました。
苗はその知り合いが神奈川で栽培しているものを株分けしてくれると言っています。
1度植えたら、竹と同じく地下茎で増えていくので、翌年以降はそれを株分けして植え替えればよく、苗を作ったり、購入したりする必要がないのも魅力に思っています。
問題は、9月か10月の収穫時期まで田んぼに水を張るため、田んぼを受託耕作するまわりの農家から苦情を言われないかという心配です。
それに地下茎が隣の田んぼに伸びていったりしないかという点も気がかりで……。
マコモタケを栽培するうえで、周囲の田んぼの米づくりに影響を出さないような管理の仕方を教えてください。
(千葉県・鈴木健郎さん/仮名・40代)
西嶋政和
マコモタケ専門家
マコモタケ栽培は雑草管理は難しいですが、水管理や地下茎の管理は心配ありません
ご質問者さんの田んぼは「コンバインが泥にはまって難儀している」とのことですが、マコモタケは、湿田で地下水位の高い水田のほうがフレッシュで鮮度のよいものが収穫できます。
現在、国内には数系統のマコモタケが栽培されています。
もともとマコモタケは短日作物のため日長に影響を受けやすい作物ですが、系統選抜が進んだ結果、昼の時間に左右されない短日性の低い系統もできています。
台湾ではこの系統を植えて、年2作を基本に田植え時期をずらすことで周年栽培ができるようになっています。
しかし、日本では冬場の気温が低いため、作期は4月~11月の期間に栽培することになります。
神奈川ではどの系統を栽培しているかわかりませんが、私が住んでいる三重県では白系の「一点紅(いってんこう)」が栽培の主流になっています。
この系統は収穫期間が1カ月以上あって長期に収穫できますが、他の青系統は収穫期間が集中し、1週間程度になります。
通常、「一点紅」では9月20日頃から収穫が始まり、最盛期は10月上中旬となり、その後、11月中頃まで収穫できます。
湿田地域では田が割れるほど乾燥することはないと思います。
稲刈りが始まったら、周辺の乾燥させている水田に合わせる必要があるため、灌水は走り水程度として、表面が乾かないようにすれば問題ありません。
ただ、栽培中は深水管理できれば、そのほうが除草の手間が多少とも省けます。
ご質問者さんは、地下茎が隣の田んぼに広がったりしないかとご心配のようですが、栽培種のマコモタケは野生種(強雑草)とは違って繁殖力が弱く、地下茎が畦を越えて広がることはありません。
栽培を止めたいときは、トラクターで耕起すればすぐに稲作に戻すことが可能です。雑草対策として、稲とマコモタケを輪作している農場もあります。
マコモタケ栽培で最大の課題は雑草の除草管理です。登録のある除草剤がないため、本田の除草は手作業か耕種的管理しかありません。
マコモタケの栽培にあたっては、株間や畝間を1メートルほど空けるので、雑草が茂りやすくなります。
私も紙マルチや水草、米ぬか除草などいろいろと試してみましたが、初期は深水で管理し、株の分けつ(10本程度)が取れたら、中干して草刈り機(刈払い機)で除草する方法が効率的です。また、アイガモを使った除草も効果的でした。
上手に栽培すると、10アールで2トンほどは収穫できます。ただ、問題は販売先で、最近では多少認知されてきたものの、まだまだ販売先が少なく、栽培農家は苦労しています。
以上のように、雑草管理さえしっかりできれば、周辺の田んぼに迷惑をかけることはありません。
また、栽培を中止する時は水を落として1~2回耕起すれば絶やすことができますので、安心して栽培に取り組んでみてください。