長崎県で放牧養豚を行っている畜産農家です。
Uターン就農し、かれこれ10年ほどになりますが、現在は約100頭ほどの元気いっぱいな豚たちの世話をしています。
豚たちに少しでもストレスをかけないように心を配り、積極的に話しかけ、エサなどにもこだわっています。
うちの豚の特徴は、筋肉質で脂身が少ないところです。
肉質が良い理由は、放牧している環境がいいからだと思います。
放牧地にはキツめの斜面もあるのですが、豚たちはそんなことも気にせずに走り回っています。
そんなわけで、体力がある豚に育った状態で出荷しているのですが、ここで大きな問題が…。
出荷する際、トラックに積み込むときに豚たちが大暴れしてしまうのです。
気の強い豚が暴れだすと、他の豚たちも同調して大変なことになります。
やっとのことで積み込んでも、屠畜場で暴れやしないか心配になります。
出荷時のストレスは肉質にも悪影響になるので、気が休まりません。
大事に育てた豚たちとの別れは非常に辛いものがあり、豚たちも同じように思っているのかもしれません。
とはいえ、できれば最後まで気持ちよく送り出してあげたいです。なにかいい訓練方法を教えてください。
(長崎県・池田さん/仮名・40代)
加藤武市
加藤技術士事務所
豚の本能を知り、うまくコントロールすることが大切です
豚の出荷は養豚場の作業の中で最も重労働の部類に入ります。さらに扱い方次第では枝肉(皮や内臓を取り除いた状態の肉)の格付けや販売金額にまで影響します。
格落ち理由に「仕上げ」や「外傷」「内出血」「アタリ」という標記を見つけることがありますが、この原因の多くが出荷時に発生しています。
大暴れする豚は「並」や「など外」にまで格下げされますので、丹精込めて育ててきても最後の最後に台無しとなり、損失金額が大きくなります。
私の経験ですと、豚は「調教」できるものと思っています。そのためにも豚の本能を知ることが必要です。ぜひ豚の本能を知り、大切な豚を気持ちよく出荷させ、経営を安定させていってください。
まずは豚の行動に関連した本能をいくつか紹介します。押さえておきたいのは、「好奇心が旺盛なので、柵を開くと出たがる」「猪突猛進」「行く手が見えないと警戒して止まる」「右回りが苦手で左回りが得意」「段差を上るのは得意だが下るのは苦手」「鼻を押さえられると動けなくなる」「前からの危険を感じると横に逃げる。後からの危険を感じると前に逃げる」といったものです。
こういった本能を知っているだけで、豚の行動をコントロールしやすくなります。
豚の本能に準じて動かしてやると、トラブルはかなり減ります。もし動きが止まってしまったら、豚の尻を軽く平手で叩いてやります。間違っても怒鳴ったり、強引に動かそうとしてはいけません。
豚は非常にデリケートですから。冗談ではなく「さあ、豚ちゃんたち、お出かけだよ」ぐらいの軽い気持ちで接するのが望ましいのです。
トラックに積み込むときには、多くの人数で豚追い込み板を使いましょう。焦らずに豚追い板で誘導すれば難なく積み込むことができます。
また、豚を乗せるトラックの後部柵の豚出入口扉の幅は90cm以上が望ましいとされています。それは、2頭並んで入ることができるからです。1頭だけでは尻込みする豚も、隣の豚が進めばすんなりと乗るものです。豚の警戒心をできるだけ緩和させることが大切です。
豚についてもっと知りたい方は「豚の不思議 家畜の不思議」や公益社団法人 畜産技術協会「アニマルウェルフェアの考え方に対応した豚の飼養管理指針」などをご覧になってください。