直売所と地元スーパーに年間通じて露地とハウスで栽培した野菜を出荷しています。
直売所もスーパーも、朝8時から9時の間の出荷が原則です。
冬場は朝、明るくなるのが遅く、しかも寒いので大変ですが、葉物(キャベツ、白菜、ほうれん草など)はみずみずしさが違うので、朝採りして出荷しています。
一方で、同じ冬野菜でもニンジンや大根などの根菜類は、みずみずしさを気にしなくてもよいので、夕方近くに収穫しています。
あくまで外見上や鮮度によって判断しているに過ぎませんが、味のことを考えた場合に、収穫の時間帯によって違いは出てくるものでしょうか?
(神奈川県・加藤優一郎さん/仮名・30代)
イチロウのゼロイチ農業(旧さいこうやさい)
野菜のみずみずしさは異なるが、いつ収穫しても美味しさが変わらないように育てることが大事
地元スーパーの朝採り野菜、いいですよね!消費者は、生産者のファンであれば指名買いしますが、そうでない場合は見た目を判断して購入することがほとんどです。
そう言った観点からすると、ご相談者さんの「みずみずしさ=おいしそう」というお考えは、消費者の嗜好ともマッチしているので、今実行されている収穫時間はすばらしい取り組みだと思います。
売上向上の基本部分は新規開拓になるため、何も知らない方向けに「おいしそう」と見せるみずみずしさはアピールポイントになるので、武器になっていると思います。
では早速ですが、収穫時間によって味の変化があるのか、近隣の生産者にもリサーチしてみました!
1:朝採れと夕採れでの味の変化はあるのか?
一般的にトマトやナスなどの果菜類は朝採れ、ほうれん草、白菜、キャベツなどの葉物は夕方の方がエグ味が少なくていいとされていますが、実際に流通している地元のナス農家やトマト農家に聞いてみたところ、いずれも午前中に収穫しているとの話でした。
どちらの作物も、水分が失われないうちには収穫を終えています。
▼キャベツ、白菜の場合、水分不足の株は硬く、食味が悪く感じる
僕が経営する「さいこうやさい」では、キャベツと白菜の収穫量が1位、2位なのですが、水没して根が傷み成長が悪く水が吸えなかったり、過剰に乾燥して水分不足になると生育不良で硬く、美味しくなくなります。収穫以前の問題ですが、これはなかなか難しいです。
僕のケースを紹介すると、10アール(1反)の畑にキャベツを4,000株を植え付けし、4,000株すべてを健全に生育させることで、出荷率を95%以上の好成績を維持する畑があります。
そこの畑で行われていることは、生産の基本で、水没を防ぎ、過剰乾燥を防ぐということですが、すべてのキャベツが1kgを越えるようになりました。
重量ばかりではなく、味の質も向上しました。そこで、収量を高めながら、味を良くする方法をお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
2:収穫タイミングの違いは、健全な生育でカバーできる
この方法は、キャベツと白菜に限られますが、生育が順調でしっかり肥大した重量のあるキャベツと白菜は、朝から夜にかけて、どんな時間帯に収穫してもレベルの高いみずみずしさ、美味しさを実現できますので、相談者さんにもきっと役立つと思います。
もちろん、朝収穫したものと夕方収穫したものでは、厳密に比べたら、みずみずしさには違いがあるでしょう。
しかし、味に関しては、正直いうと違いがわかりません。どちらも同じくらい「美味しいキャベツ」です。
「最高の味」を求めるために、作物ごとに適した収穫時間を守る努力は、素晴らしいことだと思いますし、マーケティングにおいて、それは強い売りになるでしょう。
でも、ライフワークバランスを考えたらどうでしょうか?
朝に収穫したキャベツを「朝採り」として販売するのは理想ですが、生産者の労力を考えると、とんでもなく過酷になります。
そればかりか、朝の収穫に固執するばかり、他の問題に取り組む余力も無くなってしまうのではないでしょうか?
「味で勝負したい」という課題を解決するためには、「朝採り」にこだわらなくても美味しさが保てる栽培ができればいいのです。
いつどんな時に収穫しても良い栽培体制を確立すれば、他の作業や経営に時間をかけることもできます。だからこそ、健全に育てることが重要になるのです!
ただ、今回のご相談のキャベツについては、収穫時期が11月~4月にかけてですから、夏の収穫とは異なる点も注意してください。
夏場の収穫については、時間帯は重要です。僕ら「さいこうやさい」では夏場の葉物栽培は行っていませんので、お伝えすることができないところが残念ではあります。
キャベツ白菜での味の向上、労力削減、品質向上の参考になれば幸いです。
ニンジンの味については肥料を少なめにし、生育終了と同時に肥料を切らすことにより畑の中で糖化させ、糖度と香りを高めることができます。
最後に、野菜の味については水分、糖度も大切ですが、やはり風味の力が素晴らしいと思います。
風味を出すために、さまざまな微量栄養素を補って健全な成長をさせることが基本と感じております。
「さいこうやさい」では以前、最高糖度14度のニンジンを作ったこともあるのですが、だからと言って、糖度14度が抜きん出ているわけではなく、糖度9度程度のものでも、風味のバランスが整っていれば、お客さまは満足してくれています。
糖度ばかりを追求すると、確かに甘いけれど、甘いだけで美味しさに欠ける場合もあるからです。(「さいこうやさい」のニンジンは、子供から「甘すぎるからもういらない」と言われたことがあります。)
今のすばらしい収穫方法とあわせて、野菜の健全な成長を組み合わせれば、ご相談者さんの野菜は、地域のなかで、より光る商品になっていくと思います。
具体的には、
①充分に余裕をもって生育できる肥料
②お使いの農地で健全に生育する品種
③病気や害虫を防ぎ、健康に育ち収量を確保
こちらが僕が具体的に行っている方法です。
参考になりましたでしょうか? ますますファンがついて、根強い人気になることを願っています。